「アメリカン・ビューティー(1999)」感想。見る人の環境や年齢によって見えるものが違う、ブラック・コメディの傑作!

ア行
引用元 映画.com

ブラック・コメディでアカデミー賞作品賞を受賞した稀有な作品です。

大好きなんだけど、その魅力を言語化するのは難しい。


何より娘の友達に一目ぼれして、筋トレを始めるケヴィン・スペイシーが最高過ぎる。


このぎりぎりを攻めている感。


この人の場合、リアルでは更に攻めていたようで業界から消えてしまいましたけど。



ネタバレ度80%
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分析


まあ、凄い脚本です。

当然のようにアカデミー賞脚本賞も受賞しています。



アメリカのある家族の崩壊を描く群像劇なんですが、主要人物の成長、変化をきっちりと描いています。


その主要人物とは、バーナム家の父親であるレスター(ケヴィン・スペイシー)、母親のキャロライン(アネット・ベニング)、娘のジェーン(ソーラ・バーチ)。

家族の崩壊を描くドラマである以上、本来描くのはこの三人です。



だがこの映画は違う。



娘の親友で、ケヴィン・スペイシーが入れ込む女子高生のアンジェラ(ミーナ・スヴァーリ)。

バーナム家の隣に住むフィッツ家、息子のリッキー(ウェス・ベントリー)と父親のフランク(クリス・クーパー)。


並べるだけで混乱しますが、この計六人の成長、変化を描きます。

しかもオムニバスならまだしも、この六人が複雑に絡み合う事でドラマが進行していくという、身震いするほどの超絶技巧。



特にクライマックスの展開、ドラマは至高のレベルです。



はっきり言って、普通の脚本家にこの密度は無理。





そしてこの六人のキャラ造形が本当に素晴らしい。

観客の興味を引くよう、色付けされてみんな変人に見えるんだけど、現実にいると思わせるリアリティをしっかりと持たせている。



バーナム家の父親、レスター(ケヴィン・スペイシー)が娘の親友に一目惚れしてからドラマが始まるんだけど、筋トレを始め、会社を辞めて、家族にも本音をぶつけて家庭崩壊していく一連の流れはテンポ良く、本当に心地いい。


そして色々と壊していく過程で、とても自由に、生き生きとしていく様子を見事な演技で表現している。



バーナム家の母親、キャロライン(アネット・ベニング)は理解ある妻、母を演じていたが、やり手の仕事相手と不倫してから躍動。

しかし不倫が夫にバレると混乱し、その殺害を画策する(ちなみにこの不倫がバレるシーンが最高に面白い!)。


あまり語られないけど、このアネット・ベニングの演技が本当に素晴らしい。

どこか鼻につく妻、母親が、どんどん解放されていく様子が本当に自然です。



バーナム家の娘、ジェーン(ソーラ・バーチ)は父親を毛嫌いし、家族からの逃走を図る。
その姿は青春の苦悩、不安定さ、瑞々しさに溢れている。




隣家の息子、マリファナの売人をして金を稼ぐリッキー。
父親の前では良い息子を演じつつ、隣家のジェーンを盗撮する危なさがいい。

彼がラスト、父親に見せる反抗、その切なさはまるで「エデンの東」のジェームズ・ディーンだ。




そして父親のフランク、ナチス信望者で差別主義者。

ラスト、もっとも変化を見せるのはこのフランクとも言える。
その変化に自分自身でも混乱している様子をクリス・クーパーがしっかりと魅せてくれる。



そして特筆したいのはケヴィン・スペイシーが入れ込む女子高生、アンジェラだ。
彼女の存在が、この作品にただの家族崩壊のドラマだけではない、群像劇としての奥行きを与えている。


平凡を嫌い、モデルとしての成功を夢見ており、そのためならカメラマンとも平気で寝ると公言するビッチ。


その小悪魔的な魅力にケヴィン・スペイシーがはまるんだけど、娘のジェーンは終始イライラ。

「絶対に父親とは寝ないで」とジェーンは懇願するが、「あなたの父親ってセクシーね」と不敵な態度をアンジェラが見せる事で、この友情は壊れる。


言い争いになり、ジェーンは叫ぶ。
「黙れ、ヤリマン!」

更に、ジェーンの彼氏となったリッキーもアンジェラを詰る。
「君は醜い。うんざりするほど退屈だ。自分が一番わかっている」


このリッキーの指摘が刺さり、酷く傷つくアンジェラ。
今まで散々ビッチな発言をして観客の反感を買ってきたが、この傷つく姿を見せられたら共感せざるを得ない。

平凡で退屈。

それは、いつの時代も若者がもっとも恐れる言葉だからだ。



そして傷ついたアンジェラの元に、レスター(ケヴィン・スペイシー)が現れ、二人はキスをする。

服を脱がされたアンジェラがレスターに言う。




「初めてなの」



アンジェラの内面が見える。その見栄、虚勢、プライド、弱さが。


完璧なキャラ造形だ。観客としてやられたと言わざるを得ない。




そしてそのまま抱くのかと思いきや、そっとアンジェラをシーツでくるみ、体を離すレスターにも好感を抱く。


ここまで散々無茶苦茶やってきて家庭を崩壊させた身勝手なキャラだったが、この描写で観客はホッと安心する。


変人ばかり、家庭崩壊のブラックコメディだが、不思議と後味が悪くないのは、この描写のおかげだ。


ここでレスターがアンジェラを抱いていたら、こんな一億ドルの大ヒットはしていない。




映画はこの後、衝撃の結末を迎えるが、伏線の張り方も見事。

脚本の上手さにただただ唸る。




この映画、非常に個性豊かなキャラクターたちばかりだったけど、私たちが生きる現実もまた、生きている人たちみんな一人一人、個性がある。
もし平凡に見えるとしたら、それはちゃんと見ていない、見えていないだけなのかもしれない。

そんな事まで思わせてくれるほどにリアリティのある、素敵な映画でした。



以上です。だから私は感動しました。



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