「キッド(1921)」感想。これぞチャップリン! 喜劇と悲劇を融合させた記念碑的作品!

カ行
引用元 映画.com

公開時、チャップリン31歳。


50分の中編なんですが、オリジナルは68分。

チャップリン本人が現代の観客には感傷的過ぎると思ったシーンを後年にばっさりとカット、編集し直したのが現在のバージョンです。

市販のブルーレイディスクではカットシーンが特典で見られるそう。

ファンとしては是非オリジナルバージョンも見たいですね。




この50分バージョンでもチャップリン史上、もっとも感傷的な映画だと思われますが、やはり日本人好みの、人気の作品。


短編主体の撮影スタイルから、初めて撮った長編であり、スラップスティックコメディにヒューマンドラマを取り入れるチャップリンスタイルの完成を見た作品でもあります。


ふと思い出したんですが、チャップリン信者の故淀川長治先生は生前、「初期のチャップリンは怖くて嫌いだった」と何処かで書かれていました。

今や初期の短編はほとんど見れないので、意外です。


この「キッド」以降の長編から、その風刺とペーソス(哀愁)、人間愛でチャップリンは映画史に名を残す偉大な映画作家になっていくんですが、その意味でも記念碑的な作品と言えるかと。




ネタバレ度70%
未見の方はDVDか配信で! ネタバレ上等な方はお進みください。

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分析


この映画の魅力は、チャップリンが作り出すいつものスラップスティックコメディ(どたばた喜劇)に、天才子役ジャッキー・クーガンの可愛さがプラスされている事でしょう。



その破壊力がえぐい。



私見では子役としての凄さは「クレイマー、クレイマー」のジャスティン・ヘンリーと双璧。

その名演だけで元は取れる。




映画冒頭に「ほほえましく、たぶん、一粒の涙をそそる映画」と字幕が出るんですが、誇張ではありません。

100年以上前に、こんな親子のドラマ、観客は恐らく初めての体験だったでしょう。

どれほど衝撃的だったろう、それだけでも凄い映画です。





映画は冒頭、若い女が赤ちゃんを捨てる場面から始まります。

と同時に、父親である男の方、女の写真が火に落ちたのを見て、拾おうとするのを躊躇い、そのままにする描写を挿入している。

観客に余計な疑問を与えない、さらっと説明描写を入れる、このセンスが良い。



そして捨てられた赤ちゃんをたまたま通りかかったチャップリンが見つけるという流れ。

ここ、チャップリンは赤ちゃんを見つけてから何とか誰かに押し付けようとするんですが、警官に睨まれ、泣く泣く連れて帰るどたばたはさすがで、いきなり面白い。



そしてここでもまた、捨てた赤ん坊を探し回る母親の描写をさらっと挿入してます。

観客がドラマに集中できるよう、演出がぬかり無い。





そして五年後、チャップリンと男の子は親子として仲良く暮らしている。

男の子に家屋の窓ガラスに石を投げて割らせ、困っている住人の元にガラス屋のチャップリンが駆け付けるやりとりはチャップリンらしさが溢れる名シーンです。

子役のジャッキー・クーガンがまさにミニ・チャップリンと言えるおとぼけぶりと動きを見せ、本当に可愛いですよ。





そして同時期、赤ちゃんを捨てた母親は歌手としてスターになっており、慈善事業で貧しい子供を支援している。


ここで男の子とその母親が素性の知れないまま偶然再会し、笑顔を交わします。

短いシーンですが、観客に多くの感情を抱かせる良いシーンで、ドラマに非常に効いている。




そして映画は中盤、男の子が病気になり、町医者に診てもらう事で大きく動きます。


そこで注目するのは、母親が赤ちゃんを捨てた折に忍ばせていた、「この子をよろしくお願いします」と書かれた手紙。


この小道具が効いて、ストーリーが母と子の再会に向けて、チャップリンと子の別れに向けて、テンポ良く進んでいきます。


そして哀愁の後に待っている、ハッピーエンド。





こういった脚本のテンポの良さが素晴らしい。

100年前に既に映画文法が完成されている事にも驚く。




そしてこの作品でも顕著なんですが、チャップリンはコメディを作る折、警察官をやたらいじります。

権力の象徴だった警察官をいじって大きな共感を得られた事に、ほとんどの民衆が貧しかった一昔前の時代を感じますね。



以上です。だから私は感動しました。




ちなみにこの母親役はエドナ・パーヴィアンス。

チャップリンの短編時代からヒロインをつとめた事で有名で、一時期は恋愛関係にあったそう。


そして終盤の夢のシーンに出てくる、チャップリンを誘惑する天使を演じているのはリタ・グレイ。
後にチャップリンの二番目の妻になります。


チャップリン映画にはまった時、私は中学生だったので、新人女優と結婚、離婚を繰り返す女性関係、その公私混同ぶりに関してはあまりいい気分になれなかったのを覚えています。

しかし今ではあれだけの大物ならそりゃモテるわなと納得してます。私も汚い大人になった。




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