「チェイサー(2008)」感想。韓国サスペンスの中でも屈指の重さ、押し潰される傑作!

タ行
引用元 映画.com


実際に20人を殺害、いくつかの内臓を食したとされる殺人犯がモデルになっています。

韓国映画の実録ものは「殺人の追憶」など傑作が多い印象だけど、この作品もその一つ。

Rー15だけあって、その殺戮シーンは凄惨です。

そして救いの無い展開、そのずしりと来る重さに、誰もが悶絶するはずだ。



ネタバレ度80%
未見の方はDVDか配信で! ネタバレ上等な方はお進みください。

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分析


この作品が長編デビュー作のナ・ホンジン監督、時間経過の映像表現や、大胆な編集など、始まってすぐにセンスあるなあと感じました。


デリヘル嬢と客の男が車を降りて家に向かうんだけど、その停まっている車、次のカットでは同じ場所に停まったまま、窓のあちこちに広告が貼り付けられている。

たったこれだけで数日、もしくは数週間が経過した事を観客に教えてくれる。





デリヘル嬢は男の異常性を感じ、風呂場に逃げて助けを呼ぼうとするが、携帯は繋がらない。

と思ったら次のカットでは、もう両手両足を拘束され、身動きできない状態にされている。




この大胆な省略、テンポ感がとても良い。




デリヘル嬢に男(ブリーフ一枚)が近づいてきて、ノミを脳天に打ち込もうとする。
拘束されたまま、必死に逃げるデリヘル嬢。

ここはいきなりクライマックスのような緊張感で、観客の心を鷲掴み。

この序盤は数あるサスペンス映画の中でも屈指の出来です。



これがデビュー作? 嘘だろ。





そして失踪したデリヘル嬢を捜し回る元締めが主人公なんだけど、これが元刑事というキャラ設定でとても良い。



実録ものと言っても、この主人公はフィクションだろう。
良い人間なのか、悪い人間なのか、非常に曖昧な、グレーな部分が表現できていて、この作品の魅力に一役買っている。






そしてこの映画は実録ものならではなんだろうけど、よくあるサスペンス映画のストーリー展開から逸脱している箇所が多く、それがとても興味深く、魅力になっている。




主人公がデリヘル嬢をさらった男を捜索し、捕えるまでを描く映画なのかと思ったら、驚きです、映画開始30分過ぎには犯人と出会い、捕える事に成功します。



「え? もう?」と思った。「これからどうするの?」と。



そして更に驚きです。


主人公は犯人に対して過剰な暴行をしたせいで、警察に連行されます。

その警察署で犯人はあっけなく「女を殺した」と自供する。これが映画開始40分。


「え、これからどうするの?」とまたも思います。



ちなみにこの映画は実際の殺人事件をモチーフにしているんですが、この犯人のあっけない自供は事実です。

監督はそこに面白さを感じたんじゃないかと思う。
普通のフィクションではありえない展開だ。



そこからはなかなか見た事無い展開になります。

警察は犯人の自供が唐突過ぎて、みんな半信半疑。「こいつ、何を言ってるんだ?」という顔。

しかし犯人は女の居場所を自供せず、警察もわからない。


主人公は失踪したデリヘル嬢を捜索します。必死に探し回る様子が執拗に描かれるという、序盤の盛り上がりが嘘のような地味な展開。


しかし主人公を演じたキム・ユンソクの熱演と、ナ・ホンジン監督の重厚な演出もあって、だれずに魅せる。


それでもやはり、そろそろ飽きてきたなと思っていたら、何と、犯人が釈放されます。

刑事の拷問が過ぎるという事で、堂々と警察署から出てきます。

これは知る人ぞ知る、「ダーティハリー」のプロットですね。

実録ものとうたっているけど、さすがにこの展開はフィクションだろうと思ったら、驚きです、実際の犯人、隙を見て警察署から逃げ出していました。



韓国警察、見事な大失態。



韓国映画では度々、「警察が無能すぎる」という感想が上がるんですが、実際はそれ以上だった。





映画では犯人が釈放されると同時に、捕らわれのデリヘル嬢が何とか拘束を解き、監禁場所から逃げ出します。

このヒロインには可愛い娘がいます、絶対に死ぬわけにはいかないという強い思いが感じられ、観客はみんな彼女に共感せずにはいられない。


そして彼女は近くの煙草屋に避難し、警察に通報する。

これで助かったと彼女同様、観客も安堵します。


しかし近くにいる警官はパトカーの中で熟睡し、無線を無視。



そしてなんと、その煙草屋に煙草を買いに来た犯人が現れます。

しかも煙草屋の女主人が今、逃走してきた若い女を匿っていると犯人に告げちゃうんですよ!

当然の如く、犯人は女主人を秒殺。そのまま奥にいるデリヘル嬢を見つけます。と同時に、必死に彼女を探し回る主人公のカットバック!




普通の映画なら、このヒロインの絶体絶命のピンチに主人公が駆け付けます。
そして最後の対決という流れだろう。





だがこの映画は違う。





ここが実録ものの強さというか、観客のこうなって欲しい、こうなるだろうを見事に裏切ってくれます。


ここまで引っ張りに引っ張った挙句、犯人は手に持った金槌でヒロインの脳天を、そして観客の心も砕き、地獄に堕とす。




言葉を失うわ。



ここから先はまあ、定番というか、主人公が犯人を見つけ、韓国映画デフォルトのくんずほぐれつの肉弾戦を展開して終わる。






映画全体を通して一際凄みを放つのは韓国警察の無能ぶりです。いつも二歩は遅く、そのどん臭さにはもはや恐怖を感じる。

これは確かに子供に見せてはだめだ、お巡りさんが威厳を失う。その意味のR15でしょう。



色んな意味で韓国サスペンスの雛形的作品だと思います。


以上です。だから私は感動しました。



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