公開時、チャップリン38歳。
風刺が高い評価を受けているチャップリンの長編映画だけど、この映画に風刺はほぼ無い。
その点がチャップリン映画の中でもあまり語られる事が無い理由だろう。
作中に綱渡りを披露するんだけど、これはスタント無しのガチンコで演じており、映画監督チャップリンよりも、喜劇俳優チャップリンに全振りしている異色作。
多分に感傷的なラストシーンも他に無い。
撮影時、離婚問題などで公私共に大変だったチャップリン本人の心情が反映されているように思えます。
ネタバレ度70%
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分析
序盤、警官に追われてサーカス団に逃げ込み、その追いかけっこがサーカスを見に来ていた観客にバカ受けするという展開で始まります。
ここ、罪を犯したわけではないのに警官に追われる、そのテンポ、アイデアが抜群だ。
自然とストーリーに入っていけるよう、細心の注意が払われていて、巧みです。
そしてサーカス団に入るんですが、中盤のハイライトとして、ライオンの檻に閉じ込められるシーンがあります。
ここは本物のライオンと虎が登場し、特撮無しでスリル満点。
一歩間違えれば大事故になりかねない危険なシーンですが、体の張り方が常軌を逸している。
極限状況での笑いを作りたくて本作を企画したみたいなんだけど、ここまでやるのかと驚かされる。
まあ、体を張った笑いはライバルでもある喜劇スター、バスター・キートンの十八番でもあるんだけど、この時期の映画撮影はトム・クルーズも真っ青の無茶苦茶をやります。時代ですねえ。
そしてサーカス団で出会った女性との恋。
この時期のチャップリン映画だとその片思いを描くのが定番なんですけど、この映画ではいつも以上にビター。
女性とは仲良くなりすが、得られたのは友情だけ。
彼女は後から現れた綱渡りのイケメンに夢中になります。
ここでの切ない表情はまさにチャップリンのお家芸。
好きな女子がイケメンになびくあの切なさ、全ての非モテ男子が共感せずにはいられない。
映画のクライマックスでは、イケメンの代わりに綱渡りをする羽目になるチャップリン。
ここ、数匹の猿たちも登場し、チャップリンの綱渡りの邪魔をします。
この笑いをやりたかったんでしょう、動物相手の演技はかなり難しく、相当なリテイクをこなしたらしい。
猿たちの名演もあり、緊張感が凄いです。
ただ、ライオンのシーンもそうだけど、コメディとしてはちょっと弾けきれなかった印象もあります。
まあ、動物相手だし、なかなか思い通りにはいかなかったでしょう、本当に難しいですよね。
映画は終盤、彼女との恋の顛末を描きます。
二人が上手くいくのかと思いきや、何とチャップリンは彼女をイケメンと結婚させ、自分は身を引くという展開。
何だかんだといつもハッピーエンドなので、ちょっと意外です。
やはりこの辺り、私生活が大変だった当時のチャップリンの心情が反映されているのかと。
サーカス団の移動車には乗らず、一人その場を去っていくチャップリンのラストカット。
少し切なさが過ぎるきらいがあります、その反省が次作の「街の灯」に反映されたのかもしれない。
この「サーカス」、チャップリンの長編作品ではあまり話題にならず、チャップリン本人も自伝で一切触れていないという、ちょっと微妙な立ち位置。
それでも喜劇俳優としての気概は他の作品と比べても一番でしょう。
その点、意欲作として評価したいです。
以上です。だから私は感動しました。
ちなみにフェリーニはこの作品がオールタイムベストだそうで。
らしいわあ。
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