北野武監督の衝撃デビュー作。
あのビートたけしさんが監督したとあって、当時、その完成度の高さも含めて話題になった記憶がある。
レンタルして初めて見た時、「何か変な映画だなあ」と感じた。
見慣れたコントっぽいやり取りなど、面白いのかつまらないのかわからなかった。
しかしトイレで永遠とビンタするシーンは異常に印象に残った。
その直後、大して映画好きでもない友人がこの作品を繰り返し見てるのを知って(遊びに行くといつもテレビで流してた)、「実はとんでもない作品なんじゃないか…」と胸がざわついた。
その後、北野監督は世界的な評価を得るんですが、今回、改めて見るとやっぱり面白い。
北野演出が既にほぼ完成されている事に驚く。
ネタバレ度40%
未見の方はDVDで! ネタバレ上等な方はお進みください。
この記事を書いている2023年10月現在、北野監督作品は配信ありません。
DVDで観賞したい方は私も利用している宅配レンタルがお勧めです。
分析
まずシナリオについてだけど、脚本を担当したのは名脚本家の野沢尚先生。
大ヒットドラマの「眠れる森」「青い鳥」などが有名です。
考え抜かれた構成と印象的な台詞で、唯一無二の世界観を持っています。
当時は押しも押されぬヒットメーカー。
でも、この「その男、凶暴につき」を見ると、野沢先生らしさはまるで無い。
そう、北野武監督に変えられまくって、原形はほぼ無い。
何でも北野監督が監督を引き受けるにあたって、脚本を直すというのが条件だったらしい(当初は深作監督が撮る予定でした)。
これには野沢先生も納得いかなかったんだろう、以前、自分のベスト作品を挙げるアンケートで、『北野監督に変えられる前の「その男、凶暴につき」』と答えていた。
その行間から並々ならぬ怨念を感じた。
まあ、出来上がった映画に関しては「傑作」と仰ってたらしいんだけど。
完成した作品を見る限り、野沢脚本で残っているのはおそらくプロットだけだろう。
キャラたちのコント的なやり取りやぶっきらぼうな台詞回しを見ると、そのほとんどが北野印。
これは北野作品の特徴になっていくんだけど、デビュー作で既にその演出が完成されている事に驚く。
あと、たけしさんがただ歩いてるだけの長回しとか、やたら多い。
脚本家が書く台詞より、その肉体性にリアルを感じるんだろう。
そして北野映画で最も評価される暴力描写だけど、デビュー作にして既に凄い。
その特徴は、一方的な暴力を長回しで執拗に見せる事。
暴力描写については色んなインタビューで監督が語っているけど、アクションを撮りたいんじゃなく、暴力を撮りたいんだと強く感じる。
暴力とは段取りで殴り合うようなものじゃなく、もっと一方的なものだと。
それが冒頭の子供たちのホームレスへの暴行、その長回しに顕著に出ている。
カメラは殴られているホームレスを執拗に追って、襲っている子供はほぼ撮らない。
余談だけど、撮影当初、お笑い芸人のたけしさんの指示をスタッフが全く聞かず、困ったらしい。
だけどこの冒頭のシーンのラッシュを見て以降、言う事を聞くようになったと監督が冗談交じりに言ってたな。
「俺たちは北野組だ!」とか周りに言うようになったとか笑。
あと印象的なのは、やはりトイレでヤクの売人を永遠とビンタするシーンね。これ最高。
他にも売人を車で追い回したり、白竜さんがビルの屋上で仲間に加える暴行など。
全て一方的でとにかく執拗だ。
最近の「アウトレイジ」のような瞬発力のある暴力描写とはまた違って、非常に印象に残る。
そして映画としては、この暴力描写が何よりの魅力なんだけど、この凶暴なビートたけしさんの隣に、普通以上に普通の若手刑事をバディに置く事で、その凶暴さを更に印象付ける事に成功している。
北野映画でたけしさんが刑事役なのも珍しく、このデビュー作はその作品群の中でもやはり特別だ。
あと、出てる役者陣も今見ると豪華で、当然だけど若い!
遠藤憲一さん、平泉成さん、寺島進さん、中でも岸部一徳さんのラスボス感が特に良い。
この作品、北野作品でもストーリーがちゃんとあって、見やすいのも魅力です。
以上です。だから私は感動しました。
ちなみに野沢先生は後に北野監督に変えられる前のシナリオを元に、「烈火の月」という小説を書かれてます。
新人監督の立場であのヒットメーカーの野沢先生の脚本を全直ししている事。
そこに最も凶暴さを感じる。
おすすめ北野監督作品
参加しています。記事を気に入ってくれた方、ぽちっとお願いします!