原作が話題になり、発売当時に読んで衝撃を受けた覚えがあります。
今や人気作家の朝井リョウさんですが、その瑞々しい感性はちょっとレベルが違う印象で、新しさに圧倒された。
そんな作家さんは滅多にいないので、今後も追っていこうと決めたのを覚えていますそれほど追えてないけど。
そして映画化されて、楽しみに見たら、クライマックスが大きく改変されてて、「これはどうなんだ?」という微妙な感想を抱きました。
でも日本アカデミー作品賞も受賞しただけあって、今見るとやはり面白いです。
何より今では人気の俳優さんたちが多く出演しており、彼らのブレイク前の姿が見れるのも魅力ですね。
ネタバレ度60%
未見の方はDVDか配信で! ネタバレ上等な方はお進みください。
分析
青春映画なんだけど、キラキラした感じじゃなく、どちらかと言うと、キリキリする感じです。胃が。
まず、そこが魅力です。
10代、学校で居心地の悪さ、窮屈さなどを感じて過ごした人たちには確実に刺さる。
まあ、誰もが10代の頃なんて生きにくさを感じるわけで、つまりはほとんどの人に刺さる映画です。
タイトルにある桐島は一度も出てきません。
桐島を巡る人たち、まあ、関係無い人たちもいますけど、彼らの日常を描いた群像劇です。
とっちらかりそうになるのを、曜日ごとに章立てして、色んな人物の視点で同じエピソードを描き、わかりやすくしているのが今回の脚色の特徴です。
まずクラスで目立っている女子4人組が描かれるんですが、この4人の微妙な空気感がしっかり表現されています。
清水くるみさんが橋本愛さんと二人になった瞬間、「あそこであの人たちにマジな話してもね」とポロっと零す。
はたから見たら仲良し4人組なんだけど、内実は2人(清水、橋本)と2人(山本美月、松岡茉優)というのがわかる。
しかもその二人組も親友と言うわけじゃなく、どちらのコンビもどことなく距離がある。
こういった繊細な部分を説明台詞じゃなく、さらっと表現しているのがとても良い。
この小説が刊行された頃でしょうかね、「スクールカースト」という言葉を耳にするようになったのは。
この映画でその単語は出てきませんが、テーマの一つのなのは間違いありません。
イケメントリオが放課後にバスケをしているのですが、その中の一人、東出昌大さんが言います。
「できる奴は何でもできるし、できない奴は何もできないって話でしょ」
すかさず一人が反論。
「お前、それはできる側だから言える事だぞ」
その通りです。
こんな東出昌大さんみたいな高校生がいたら、そりゃ何でもできたでしょうよ。最近、何もかも失った時期がありましたけど。
そしてこんなイケメン東出さんに憧れる吹奏楽部キャプテンの大後寿々花さん。
東出さんの視界に入る場所を選んで、自分がサックスを吹く姿を見せつける事を繰り返すイタさが最高です。
個人的にこの映画でもっとも共感できたキャラです。
何せ、私も陸上部のアイドルの視界に入る場所を選んで、わざとらしく腕相撲をした恥ずかしい過去がありますから。
今思うと何なんでしょうねあれ、腕相撲しているとカッコいいと思われるとか考えたんでしょうか。
陸上部のアイドルもやれやれと思ってたでしょうね。
しかも私、負けたし。
東出さんと交際している松岡茉優さんは大後寿々花さんが周りをうろついているのに気づいており、鬱陶しく感じています。
そこで大後さんが遠くから見ているのに気付き、松岡さんは東出さんとキスをします。
ショックを受けつつ、サックスを吹き続ける大後さん。
わかる、わかるぞ、大後さん。頑張れ。
そしてこの映画の主人公は映画部の神木隆之介さんです。
自主製作映画を撮っているんですが、この映画部のダサさが絶妙すぎて辛い。
一目でわかる、スクールカースト下位のこの空気感。
私も高校時代、友人とドラマを撮ろうとした事があります。
よって共感しかないこのキャラたちのダサさ、まじで辛い。
神木君、ロメロを熱く語り、自主製作のタイトルは「生徒会・オブ・ザ・デッド」。
あああああ!!
しかしそんな神木君ですが、塚本監督の「鉄男」を映画館に見に行くと、客席にクラスメートの橋本愛さんを見つけます。
何と、二人は中学時代、映画について語り合った事があるという。
今やスクールカースト上位と下位で会話する事は無いが。
こんな美少女と映画館でばったり、そして今見た映画について語り合う。
わかるぞ神木君、恋の始まりを感じているな。
そりゃこんな美少女と共通の趣味で語り合ったなら、妄想が暴走するのはわかる。
しかし悲しいかな、翌日、学校では視線さえ合わない。
完全に赤の他人という彼女の反応。
あったよ、私にも。似たような事が。特別な二人だと思ったが、ただの錯覚だった事が。
この橋本愛さん、この映画出演時は「あまちゃん」でブレイクする前なんだけど、この美貌、顔の完成度がやばいです。
まだ15、6歳だと思うんだけど。もはや美術品じゃないか。
そして他人との微妙な距離感を上手く表現しています。
ある男子が「わけわかんねえな、女子」と言うと、「ほんとに。あたしも女子だけど」と零して去っていく。
どことなくカースト下位の男子にも希望を持たせる、男を見る目がありそうな感が出ています。
いますよね、イケメンじゃなく、本物の魅力ある男を見抜く目を持っていると思わせる(※自分を何故か本物の魅力ある男だと思い込んでいるのがミソ)美少女、モテない男子の希望の星。
ところがですね、神木君が偶然、橋本愛さんがイケメンの彼氏と親密にしているところを目撃します。
神木君のショックはいかほどか。
見てる私でさえショックでした。
橋本愛よ、お前もか、と。
上位は上位とくっつくのかと。
しかしそう、これが現実ですよ。突きつけてきますね、残酷なほどに。
そして映画はクライマックスを迎えるんですが、全ての登場人物たちが屋上で交わるシーンはこの脚色の目玉でしょう。
見てください、このカオスぶり。
映画部がゾンビ映画を撮影中に、乱入するカースト上位組。
イケメンたちに襲い掛かるオタクゾンビたち、イタさも最高潮でもう正視できません。
原作ファンだと少し違和感を感じるでしょうけど、映画化するにはこのクライマックスはしょうがないかな。
原作未読だと、良いクライマックスだと思います。
ここで橋本愛さん、東出昌大さんが見せる意外性が好ましく、静かに胸を打ちます。
そう、カースト上位にも、わだかまり、悩み、苦しみがある事を教えてくれる。
この映画、しっかりと全員を描いています。
どんな立場でも、誰でも、葛藤があるんだと。
良い映画です。それでも私は上位になりたかったけど。
あと、時折登場する野球部キャプテンが良い味出しています。
三年生なのに何故部活に出るのか、引退しないのか、不思議に思った東出さんに尋ねられると、「ドラフトが終わるまではな」と笑顔で答えるキャプテン。
一切、スカウトなんて来ていないのに。
誰かが見ているかもと、その可能性を信じているんでしょう。
そうだ、これこそ青春だよ。尊い。
以上です。だから私は感動しました。
ちなみにこの作品、日本アカデミー最優秀作品賞を受賞したんだけど。
正直、凄く意外でした。
若者しか出ない青春映画の佳作がアカデミー作品賞?と。
今回見たら、製作ががっつり日テレでした。
受賞には関係無いんだろうけども、少し大人の世界を感じてしまいました。
この苦み、ここまでが映画です。
でも本当に傑作ですよ!
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