「東京物語(1953)」感想。時の「無常」を痛感させてくれる、日本人のマスターピース!

邦画
引用元 映画.com

以前、小津映画のテーマは「時間」だと、誰かがツィッターで呟いていたのを見た事がある。

つまりは「わびしさ」だと。



この日本映画屈指の名作、若い時分に見た時はそれほど刺さらなかった。

それが今回見直して、色々なシーンが刺さる刺さる。

自分が過ごしてきた時間、変化を嫌でも感じさせてくれる。


やはり屈指の名作、老境になったらまた見直したいと思います。




ネタバレ度90%
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分析


尾道に住む老夫婦が、東京にいる子供達(長男夫婦、長女夫婦、亡くなった次男の嫁)にはるばる会いに行く。


しかし忙しさに追われる子供たちは両親を厄介者扱い。


一番世話をしてくれたのは、元は他人の、亡くなった次男の嫁だった。




身につまされる話だ。


この粗筋を読むと、東京を舞台にした親子のやり取りがメインになっていくんだろうと想像できる。


しかしその予想はすぐに裏切られる。


映画冒頭に老夫婦が東京へ旅立つ。



長男の家に泊まり、「いずれは長女の家にも行ってやらんと」とか言っているが、どちらの家でも気付けば厄介者。


みんな忙しくて、誰も親の相手ができない。


挙句、映画開始37分には、亡くなった次男の嫁(原節子)に押し付けられる。



これでもう老夫婦の長男、長女との絡みはほぼ終了。


展開の早さに驚く。


普通の映画だと、ここが中盤、ミッドポイントだろう。


一体ここから何を描くのか、ここでもう名作の片鱗を感じる。





そして老夫婦は原節子のアパートに行くが、狭い一室では長居はできない。


結果、長男、長女にお金を渡されて、映画開始48分、今度は熱海の旅館に追いやられる。



旅館では若者たちが深夜までどんちゃん騒ぎ。

ろくに寝る事も出来ず、翌日には東京に戻るが、子供たちからは更に厄介者扱いされ、いたたまれず出ていく。


そして映画開始60分、上野公園で座り込み、「とうとう宿無しになってしもうた」と笑う夫(笠智衆)に胸が締め付けられる。



ここが映画のミッドポイントになるんだけど、テーマ(家族の崩壊)を既に十分に見せている。


普通の映画ならここで終わるか、ラストに向かう流れだ。



だが、この映画は違う、真骨頂はここからだ。



老夫婦は一旦別れ、夫は旧友の元へ。妻(東山千栄子)は再び原節子のアパートへ。


夫は気の許せる旧友を前にして、子供たちへの不満を吐露する。

長男について、「小さな町医者じゃとは思わんかった」「もっと優しい子じゃった」と。


あのいつもニコニコしている笠智衆だからこそ、映画を見ている全ての子供がドキッとする。


子が親への不満を吐露するシーンは多くの映画で見るけど、立派に家庭を築いている子への不満を親が語るシーンはあまり無いからね。



片や妻(東山千恵子)はアパートで二人になると、亡くなった次男の嫁(原節子)に再婚を勧める。

ここは二人が相手を想う優しさが感じられる名シーンです。





ここで終わるのかと思いきや、上映時間はまだたっぷり残っている。

ここから一体何を描くのか?

そう、テーマを深堀りしていくここからが、この作品が名作とされる理由です。



老夫婦が尾道に帰宅してすぐ、妻は倒れ、危篤になる。


東京の子供たちは母親が危篤と聞いて、どうするかを話す。

ここで長女(杉村春子)の台詞がなかなかきつい。

「行かなきゃいけないかしら」

更に厳しい一言。

「喪服持っていく?」


何気ない一言だが、彼女の冷静な口調から、小津監督が描こうとする厳しさが感じられる。


そして子供たちが東京から駆けつけて、見守られて、母は亡くなる。

子供達だけの場で、更に長女がきつい。

「お母さんのあれ、形見でちょうだい」

「どっちかと言えばお父さん、先の方が良かったわねえ。(次女で父と同居している)京子が嫁にでも行ったら、ほんと厄介よ」









頼む!これ以上はやめてくれ。




この杉村春子さんの存在、この映画では極めて大きい。

この作品の厳しさを一心に背負っているかのような、素晴らしい存在感、そして演技力だ(ちなみに邦画で一番演技の上手い役者さんだと勝手に思っています)。





そして長男、長女はさっさと東京に帰っていく。

残るのはやはりというか、次男の嫁、原節子。



ラスト近く、次女の京子(香川京子)と二人で向かい合って話すシーンはこの作品のテーマを直接描いている。

兄や姉の冷めた態度に不満を露にする次女。


「家族なんてつまらないわ」

「しょうがないのよ」


原節子は優しく諭す。
大人になれば、みんなああなっていくのだと。自分の生活が大事になっていくんだと。

「ああはなりたくないけど」と言いながら、覚悟している。時の流れには逆らえないのだと。



そして原節子と笠智衆、二人きりのシーンへ。

笠智衆は妻と同様、原節子に再婚を勧める。

そこで彼女は涙する。

「お義父さんが思っているような、良い人間じゃないんです。私、ずるいんです。(亡くなった夫の事を)思い出さない日もあるんです」

時間と共に、亡くなった夫への愛が段々小さくなっている、そんな自分への失望。

胸に迫る名シーンです。





そして原節子も東京に帰り、一人、窓の外を眺める笠智衆。

近所の人間に声をかけられ、「(妻に)もっと優しくしとれば良かった」と後悔を語る。



窓の外を眺める笠智衆の横顔は、虚無感が滲み出て素晴らしい。

ラスト、親と子の物語から、しっかりと夫婦の物語に帰結する美しさよ。




この映画、全体を通して、構成が凄い。


やはり三十分弱で老夫婦を次男の嫁のアパートにまで追いやった事、その展開の早さが成功のポイントだと思う。

普通の映画なら終わりに向かうような流れから、更にテーマを執拗に深堀りしていく、小津監督の厳しさがこの作品の魅力です。



以上です。だから私は感動しました。




ちなみに小津映画の原節子さんは日本女性の理想像とよく言われます。

再婚をすすめられ、「良い人がいれば」と慎ましく答える笑顔、素敵でした。


良い人、ここにいます。


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