久しぶりに見たらなんか凄かった…。
ホラー映画といえば何処かB級映画的なイメージがありますが、この映画の脚本は凄まじい完成度で全く隙が無い。
特にクライマックスの畳みかけは至高の域にある。
さすがスティーブン・キング原作というべきか。
そこに職人監督ロブ・ライナーの的確な演出、キャシー・ベイツとジェームズ・カーン、名優二人のガチンコ対決が重なる。
見所しかありません。
ネタバレ度60%
未見の方はDVDか配信で! ネタバレ上等な方はお進みください。
分析
監禁ものってたくさんあります。エロいのも含めればもはや一つのジャンルと言っていい。
それでもこの映画のように、女性が男性を監禁するのは珍しいんじゃないかな。
しかも監禁されるのは「ゴッドファーザー」の長男役が有名な、男臭い、粗暴なイメージのジェームズ・カーン。
そんな彼が女性に監禁されていたぶられる。ワクワクしますね。
そして監禁するのは今作でアカデミー主演女優賞を獲得したキャシー・ベイツ。
この映画、最初から最後まで完全なるキャシー・ベイツ劇場です。
序盤、豚の鳴き真似をした瞬間から、「これはヤバい」と感じます。
何より凄いのは、彼女が無垢な笑顔を見せる時が一番怖いという事。
この先のキレっぷりが想像され、彼女がご機嫌な時ほど怖いという、完全なるホラーの頂きを見せてくれます。
ホラー映画において、その恐怖の対象は様々です。
ゾンビや幽霊がポピュラーですが、「人間が一番怖い」というホラーも多い。
その中でも「自分は正しい」と思いこんでいる人間が一番怖いんですよね。リアルでも。
自分を正義と思っているから躊躇が無い。むしろ使命感さえ感じて猛進するので非常にやっかい。
このキャシー・ベイツ、そのリアリティが抜けて凄いです。ほんとにいそう。
さて内容ですが。
両足を負傷した人気作家、ジェームズ・カーンを大ファンであるキャシー・ベイツが監禁するという流れなんですが、序盤のキャシー・ベイツは元看護婦という設定でいかにも良い人そう。
ところが早い段階からその狂気を垣間見せます、その匙加減、絶妙。
これはヤバいと思ったジェームズ・カーンは何とか逃げようとするが、両足が動かず、車椅子でしか移動できない。
そしてキャシー・ベイツが買い物に出かけた時を見計らい、拾ったヘアピンでむりくり部屋の鍵を開け、家屋の中を車椅子で動き回る。
こんなところをキャシー・ベイツに見つかったらやばいです。
この定番とも言える、いつ帰ってくるか、見つかるかのサスペンス。
前半の見せ場なんですが、ここは如実に演出力、演技力が試される場面、やはり上手いです。わかっててもハラハラします。
そしてジェームズ・カーンが事故った車が雪の中で見つかるミッドポイント。
おそらく遭難して死んだと報道されるんですが、その地の老保安官だけはジェームズ・カーンは生きていると確信する。
ここまでキャシー・ベイツとジェームズ・カーンの二人芝居で進んできましたが、ここに保安官がどう絡むか、世界観が広がる教科書的なミッドポイントです。
そしてジェームズ・カーンは監禁当初から定期的に与えられている痛み止めの薬をため込み、キャシー・ベイツへの反撃を試みます。
ここまで何度も薬をためる描写があり、かなり重要な小道具なんだろうなと思っていたら、驚きです、ワインに盛るんですが、キャシー・ベイツが不注意でグラスを倒してしまい、計画は一瞬でパー。
おかげでここからの展開は全く想像がつかない。
監禁生活は続き、キャシー・ベイツが望む小説を書き続けるジェームズ・カーン。
そして時が過ぎ、小説が完成に近づいてくると、キャシー・ベイツは浮かない顔。その理由をジェームズ・カーンに打ち明けます。
「初めは作家のあなたを愛していた。でも今は…」
恋する乙女の顔でジェームズ・カーンを見つめます。そしてボソッと、「銃があるの。時々、撃ちたくなる」
やべえ。
何としても逃げないとと焦るジャームズ・カーン。再び彼女の留守中に家屋を動き回ると、スクラップブックを見つけ、彼女が本物の殺人鬼だとわかる。
もはや戦うしかないと覚悟を決め、包丁をベッドに隠し、「決戦は朝だ」と眠りにつきます。
ここからクライマックスに突入するんですが、ここからは怒涛の展開でまじで息つく暇がありません。
未見の方は是非一度見て、堪能していただきたい。
暴走するキャシー・ベイツの狂気。ジェームズ・カーンの必死の抵抗。
期待しては絶望、安堵したら恐怖、この無限ループ、手に汗握る展開はそこらのアクション映画を軽く超えます。
何より小説家、大ファンで看護士という全ての設定が絶妙に絡み合い、更にタイプ用紙や人形など、小道具も効果的に使用され、とんでもない密度です。
もはやターミネーターか、キャシー・ベイツかというレベルですよ!
このクライマックスはホラー映画の枠を確実に超えてます。
そして最後に言いたい。
ロブ・ライナー監督の凄さ。
その演出作品のラインナップ。
ホラーの最高峰である今作に加え、青春映画のバイブル「スタンド・バイミー」、ラブコメの頂点「恋人たちの予感」、ヒューマンドラマの傑作「最高の人生の見つけ方」など、映画史に残る名作の数々。
まるで現代のウイリアム・ワイラーと呼ぶべき職人ぶり。
なのにあまり話題にならない。
私だけは見ている。そう彼に伝えたい。
以上です。だから私は感動しました。
ちなみにジェームズ・カーン救出に向かう老保安官は名優リチャード・ファーンズワース。
あの「ストレイト・ストーリー」のお爺さんです。
そして注目したいのはこの保安官の妻です。性欲過多らしく、運転中の夫の太腿を撫で、「早くベッドに入りたい」とか言い出します。
おそらく「X」の元ネタだろう。
そしてオールドファンにはたまらない、ローレン・バコールが編集者役で出演しています。
かつてはボギーの相手役などをつとめた人気女優ですね。
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