「ミッドナイト・ラン(1988)」感想。脚本は神レベル、デニーロ主演の隠れた傑作!

マ行
引用元 映画.com

デニーロの代表作として挙げられる事は少ないですが、脚本の巧みさは最高レベルの名作です。


70、80年代、名作の数々で熱演を見せ続けたデニーロが、肩の力を抜いた、自然体の演技を披露しています。


ネタバレ度70%
未見の方はDVDか配信で! ネタバレ上等な方はお進みください。

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分析


ロバート・デニーロがバウンティハンター(賞金稼ぎ)を演じるロードムービー。


指名手配犯を捕まえるバウンティハンターは現在のアメリカでも実際にいます。
それでも現代の賞金稼ぎを題材にした映画は少なく、その意味でも一見の価値ありかと。




冒頭、デニーロ演じるジャックが指名手配犯を捕らえる。

賞金稼ぎの友人でライバルでもあるマービンも紹介し、テンポよく見せるこの序盤が既に上手い。




その後、ケチな保釈屋のエディに仕事を振られます。

マフィアの金を横領した会計士、デューク(チャールズ・グローディン)の居場所を探して連れて来いと。


このデュークに対して、金を横領されたマフィアと、彼から情報を得たいFBIが加わり、デューク争奪戦が始まります。




序盤、ジャックがニューヨークにいるデュークの居場所をいきなり見つけるんですが、そこはなるほどと思わせるアイデアがあって上手いです。

しかも、このデュークを捕まえるまで、映画開始20分も使用しておらず、呆れるほどのテンポの良さ。



そしてデュークをロスまで連れて帰るんですが、これが一筋縄ではいかない。

飛行機ならすぐですが、デュークは飛行機恐怖症で乗れないと言い出す。

ここの台詞のやり取りもキャラクターが上手く出ています。


「飛行機には乗れない。高所恐怖症と閉所恐怖症なんだ」
「ゲンコツ恐怖症になりたいか?」



そう言って、ジャックはデュークを飛行機内に連れていく。

だが離陸寸前にデュークは恐怖で暴れ出し、一転、汽車での移動になります。

そう、ここからニューヨークからロスまでのアメリカ横断のロードムービーになります。




そしてジャックがデュークを捕まえた事を、早速、FBIもマフィアも嗅ぎつけます。

この嗅ぎつけ方も保釈屋エディの事務所にマフィアのスパイがいたり、FBIががっつり盗聴していたり、ユーモアたっぷりに描かれて上手いです。


そこに賞金稼ぎのライバル、マービンも加わり、このデューク争奪戦、ただでは終わらない様相を見せます。


ここからの展開、デニーロ、ライバルのマービン、マフィア、FBIの思惑が入り乱れて、その出し入れが絶妙。


一つ一つ書き上げると大変なので書きません。

この四者四様のキャラが複雑に絡み合い、出し抜いたり、騙したり、その相互作用はまるで精巧なパズルのよう。


脚本家はどれだけのパターンを考えて、この完璧なプロットを組み上げて行ったのか、想像するだけで目まいがします。

呆れるほど気の遠くなる、忍耐が必要な作業でしょう。凄い。




中でもデニーロはFBIのモーズリ捜査官との初対面で、彼のバッジを盗んでおり、道中はFBI捜査官と身分を偽って様々なトラブルを切り抜けます。

バッジを盗まれたモーズリ捜査官は部下たちの手前、格好がつかず、ずっと不機嫌。
この辺りのモーズリ捜査官の表情も味があって最高です。

そしてデニーロを追う度に、道中、自分のバッジを使用された事が強調される。

汽車で追い詰めた時も、タッチの差で逃げられます。

車掌にジャック(デニーロ)の行方を尋ねる際のやり取り。

「ジャックは何処だ?」
「前の駅で降りました。本名はモーズリですよ」
「それは俺だ!」


笑った。




更にジャックとデュークのコンビを追うマフィアですが、ジャックの機転により、なかなか見つけられません。

マフィアのボスが部下に電話します。電話に出た部下に、

「バカか。もう一人のバカを出せ」

この台詞で怒り心頭なのがわかります。

怒っているからと言ってただ怒鳴り散らすわけじゃなく、このような台詞で感情を表現する、上手いです。




そしてただデュークを連れて帰るというストーリーだけじゃなく、ジャックが別れた妻子と九年ぶりにシカゴで再会するサブストーリーも盛り込まれます。

道中、お金が無くなって、借りに来たんですが、当然と言うか、別れた妻は迷惑そうです。

ジャックとデュークは追い出されるように去るんですが、そこで九年ぶりに会った娘は、子守して貯めたなけなしの180ドルを渡そうとする。

デニーロは父親として、受け取らない、受け取れない。

このやり取りは感動的で、地味に良いエピソード。




ここまでが前半。

そして中盤からはヘリに追われて機関銃を撃たれたり、川で急流に流されて溺れそうになったり、貨物車に忍び込んで移動したりと、手を変え品を変え、観客を楽しませてくれます。



そして道中、主演二人の距離が少しずつ近づいていきます。


ジャックは元警官で、マフィアから賄賂を受け取らなかったために同僚にはめられて辞職した過去が明かされます。


そしてこのマフィアこそが、デュークがお金を横領したマフィアだとわかる。


またデュークは、横領したお金を慈善事業に寄付しています。


ここまで来ると、観客は主役二人にすっかり共感。
自分の矜持を持った、憎めない、愛すべき二人です。

こうした二人の因縁が明らかになるタイミングも抜群で、いがみ合っていた二人だが笑顔も増え、徐々に友情が生まれていきます。





しかしクライマックスを前にして、ジャックは賞金稼ぎのマービンとマフィアによって、デュークを奪われます。


ここで一旦、ストーリーが止まります。

落ち込むジャック、しかしFBIと取引して、デューク奪還に動くクライマックスへ。


まるでお手本のようなザ・三幕構成。


もちろん、一筋縄ではいかないクライマックスの見せ方もさすがの上手さ。




そして見事にデュークを奪還するんですが、ここで粋なラストが待っています。

この映画が傑作となったのは、この粋なラストにあると言っても過言ではない。


さらっと描かれますが、心が温かくなるラスト、未見の方は是非見届けて欲しい。




そして傑作シナリオは必ずと言っていいほど小道具の使い方が上手いんですが、この作品も例に漏れず上手いです。



FBIのバッジ、サングラス、煙草、腕時計など。

窮地を切り抜けるために使われたり、キャラの性格や関係性を魅力的に見せるため、絶妙な使われ方をしています。

それによって作品のテンポ、キャラの深みが増しています。


キャラ造形も一人一人がくっきりとしており、みんな、愛すべき奴らになっている。

そしてユーモア抜群の台詞たち。




まさにエンタメ脚本のお手本だ。




以上です。だから私は感動しました。




この映画、デニーロが気に入っている作品としても有名で、以前、ニュースステーションで「一番好きな出演作品は?」と聞かれ、「ミッドナイト・ラン」と答えたようです(※ウィキ調べ)。



なお、テレビ放送された吹き替えは伝説の吹き替えとして有名です。

ユーモアのある台詞のやり取りを十二分に楽しめると思います。

ソフトや配信で見る方は、是非そこもチェックしていただきたい。

今回はゲオの宅配レンタルでDVDを借りたんですが、吹き替えは入っていませんでした。残念!


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