「ゲット・アウト(2017)」感想。人種差別とホラーを掛け合わせた新しさ、そして観客を驚かせる構成の妙が冴える!

カ行
引用元 映画.com



ジョーダン・ピール監督のデビュー作で、アカデミー賞脚本賞受賞の傑作ホラー。

メタファーを多用する作家なので少し難解なイメージもあるけど、見直してみると、非常にわかりやすい演出です。


観客を誘導し、その予想を裏切っていく展開が非常にテクニカルで上手い。

その点を少し書いてみます。

ほとんど「上手い」しか書いてませんが。




ネタバレ度90%
未見の方はDVDか配信で! ネタバレ上等な方はお進みください。

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分析


人種差別の不穏さをホラーに持ち込んだ点が新しく、絶賛された今作。


そのストーリーは黒人のクリスと白人のローズのカップルが、ローズの実家を訪れる事で始まる。

その実家は白人家族に、黒人の使用人という、ステレオタイプの家庭。




そこに愛する娘が黒人の彼氏を連れてきた事で、ビジュアル的にもいきなり不穏さが漂います。



この辺りの黒人使用人の描き方は分かりやすすぎるほどの演出で不穏さを表現しています。



訝し気に向けてくる視線、その表情、更には深夜、自分に向かって全力で走ってきたり。

思わず笑ってしまいます。
この辺りはコメディアンでもある監督らしく、まるでコントのよう。






そしてパーティーが行われ、白人の来客が殺到する。

その中で黒人のクリスは浮いてしまい、居場所が無い。



白人の来客たちはみんな、差別主義者じゃない事をアピールします。

彼らはオバマが好き、タイガーが好きと言いますが、そうアピールすればするほど、肌の色を意識しているのがわかる。

この辺り、風刺が効いてて良いですね。

他にも「総合格闘技はしないのか?」と聞く者や、体を触り、「アレは凄いの?」と直接的な表現も。

こうした黒人を意識した会話が続く。


過剰に黒人を意識しているパーティー出席者たち、クリスがいなくなると全員が会話を止めるシーンなど、徐々に不穏さが増していく演出が上手いです。




更にはこの人種差別の不穏さと同時に、精神科医であるローズの母親がクリスに催眠術をかけるのもアクセントとなって、更に不穏さを煽る。

この催眠術は効果抜群で、愛煙家のクリスが以後、吸えなくなるほど。

催眠術にかかるシーンは映像的にも工夫されており、映画的な表現で処理しています。

この辺りの演出、デビュー作とは思えない手練手管ぶり。




クリスはパーティーを抜け出し、家に帰ることを考えます。

と同時に、パーティー会場ではローズの家族と出席者たちでビンゴをしているシーンがカットバックされます。

だがこれ、ビンゴかと思いきや、クリスの写真を前にして何やら競売をしているような雰囲気。

ここで不穏さはピークに達する。

脚本ではミッドポイントにあたります。




その後、クリスは友人に電話して状況を相談する。

ここでの会話で、パーティーに一人だけいた黒人出席者は、失踪し、行方不明になっている事が発覚。

何故、彼は別人となってここで暮らしているのか?




更に、実はローズが不自然なほどに多数の黒人男性と付き合ってきた事がわかる大量の写真を発見。

ここでローズの言動に嘘がある事が判明します。



観客は「?」の大洪水。クリス同様、もはや何を信じていいのか、わかりません。




そしてクリスが慌てて逃げようとしたところ、ローズの家族に囲まれます。



味方と信じたいローズもまた、車のキーを掲げ、「あなたに渡すわけにはいかない」と笑う。


ここでローズとその家族は黒人を捕える事が目的のやばい集団だと判明します。




おお…。



この辺りの怒涛の伏線回収は、どんでん返し的な鮮やかさ。

しっかりと裏切られました、監督の見事な演出を感じます。ローズめ!




そして本来、このどんでん返しで終わるのが普通です。

よく見かけるでしょう、捕えられて悲鳴を上げたところにエンドロールみたいな流れ。



しかしこの映画は違う。




黒人を捕まえる目的は?という謎と共に、クライマックスに向かいます。

捕えられて身動きできないクリス、そこで謎の答えがテレビ画面を通して語られます。



彼らは自分の脳を健康で若い黒人に移植し、永遠の命を得ようする狂気の集団です。



ホラー映画らしい、イカれた連中です。



何とか拘束を解いて逃げ出すクリス。

この脱出劇がクライマックスになるんですが、その中で、黒人の使用人二人が実は脳を移植したローズの祖父、祖母だとわかる。

ここにきて、更なる伏線回収、その上手さに感動すら覚えます。


この祖父の脳を移植された黒人男性がとる行動も小さなショックを受けます。

ここが作品のテーマなんですが、上手い。



そしてラスト、銃を持って追ってきたローズを押さえつけ、彼女の首を絞めているところに、パトカーが駆け付ける。

はたから見れば白人女性を襲う黒人男性といういかにもな構図。


観客としては「ああ、黒人というだけで、容疑者にされるんだろうな」と思ったところ、パトカーから下りてきたのはクリスが何度も相談していた友人であり、事情を知る黒人保安局員。



最後まで上手い。


見事なハッピーエンドです。

最後まで観客の感情を誘導し、最高に気持ち良くしてくれる。



ちなみに当初は違うエンディングだったらしい。
上に書いた、黒人だからと逮捕される展開でした。

このラストもブルーレイディスクの特典にありました。
ハッピーエンドの方が良いですね。




凄い演出、そして脚本です。

これがデビュー作とは。

鮮烈デビューを飾ったタランティーノ、シャマランレベルと言っていい。



以上です。だから私は感動しました。




と、誉めまくりましたが、実はこのデビュー作、私的にははまっていない面もある。

このストーリー、脳移植する体を求めての誘拐劇なので、本来、人種は関係無い。

さらわれるのが白人の若者でも成立する内容だ。

何故、黒人を誘拐するのかという疑問に対して、「黒人の方が身体的に優れている」という理由を用意しているんだけど、つまりはここの白人たちは黒人を認めていて、憧れている。

人種差別を題材に使用しながらも、実際は、白人たちが黒人になろうとしているという内容です。

この点、題材とテーマがはまってない、上手くリンクしていない感がある。


例えば、何故黒人になった祖父、祖母が使用人として働いているのか。

祖母は自分の容姿を気に入っているような描写があったけど、もういい大人になっている子供や孫の世話をしたくて脳を移植したわけではないだろう。

そこに理由が用意されていない。
これだけ伏線回収をしている脚本なのに。


そこが軽いと感じる。




しかし絶賛されてアカデミー賞脚本賞まで受賞しているんだから、この違和感は少数派なのだろう。


だけど、私としてはもう少し他の作品を見て、評価を決めたい作家です。



でも脚本の上手さは抜群です。そこは疑いようがない。


ただ最新作の「ノープ」なんかを見ると、脚本の上手さは後退してきているようにも見える。


映像作家の方にシフトしてきているような。


次作に期待します。




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