コメディ、SF、ドラマ、アクション、サスペンスなど、色んなジャンルを横断し、まとまりの無い作品になるかと思いきや、ラストは爽やかな感動を得られる見事な作品。
ツッコミどころは多いけど、70年代的強引さで突っ走り、有無を言わさない。
ネタバレ度80%
未見の方はDVDか配信で! ネタバレ上等な方はお進みください。
分析
全国民が注目する有人火星探査のテレビ中継を、NASAがご近所のスタジオ撮影で騙し通そうとするストーリー。
企画だけ聞けば、コメディとしか思えません。
しかしこの映画はこの企画をシリアスに描きます。コメディにする気は一ミリもありません。
だが、それが絶妙なユーモアを醸し出し、何度も笑ってしまう。
この時点で大好きな映画です。
宇宙飛行士の三人(ジェームズ・ブローリン、サム・ウォーターストン、О・J・シンプソン)は本当に火星へ旅立つと思っていますが、ロケット発射直前に呼び出され、スタジオ撮影するよう、命令されます。
もちろん、三人、激昂。
しかしこの三人を説得する上司、ケラウェイ博士の演説が素晴らしい。
凄まじい長台詞の熱演なのですが、言ってる事は無茶苦茶です。
ここ、何とか同情を買おうとする姿がやたら面白い。
結局、三人は家族を人質にとられ、従うしかならなくなります。
やがてロケットが火星に着陸(したフリ)。
宇宙飛行士三人が火星に降り立つ瞬間、重力差を感じさせるため、映像をスローモーションにします。
「スローモーション、用意」
やってるNASA職員たちの真顔、笑えます。
やがてロケット内の宇宙飛行士三人と、家族とのテレビ電話。
地球との距離があるため、21分の誤差があります(実際はただの長距離電話)。
家族とのテレビ電話のシーンも奥ゆかしいユーモアを感じます。
中でもサム・ウォーターストン演じるキャラの台詞はいつも秀逸。
妻に「仕事場に電話するなと言ったろ」と返す抜群のユーモア。
しかし全国民を騙し続けている事に、宇宙飛行士三人は良心の呵責に苛まれます。
この苦しみが大きければ大きいほど、作品としては面白く、笑える作品になっている奇跡。
この面白さ、他の映画ではなかなか味わえません。
そしてロケットは地球への帰還を目指します。
ところが順調にはいきません。
ロケットの熱遮蔽板の異常で、三人は大気圏突入時に死亡した事にされます(実際はぴんぴんしてます)。
もう、たまりませんね。
「俺たちは死んだんだ」絶望するジェームズ・ブローリン。
そこでサム・ウォーターストンは「俺は良い奴だったのに」と返すさすがのユーモア。
もはや家族と会う事も許されなくなり、三人は基地からの逃亡を図ります。
ここが映画のミッドポイント。
普通ならここをクライマックスに持ってくると思うのですが、中盤に持ってきているのがこの映画のおかしな、もとい、独特なところです。
もっと国民を騙して苦しむ彼らを見たかったというのが本音です。
実際、ここからは逃亡劇になり、普通の映画になります。
同時に、エリオット・グールド演じる記者が真相に迫っていくサスペンスを並行させて見せていきます。
ここからは普通の映画になると書きましたが、それはストーリー展開がという意味で、この映画は脚本が、特に台詞が抜群に上手く、全く飽きさせません。
それは脇役にまで徹底されており、映画後半に出てくる女性記者やパイロットまで、少しの出演なのに非常にキャラが立っています。
設定の面白さと共に、この台詞の魅力は注目ポイント。
ここでは書ききれません、是非、見た折はチェックして欲しい。
クライマックスは飛行機とヘリの壮絶な空中チェイスで手に汗握る迫力です。
火星は一体何処に行ったのか。
そしてラスト。
カメラ目線で笑顔で走ってくるオジさんの映像にこれほど感動した事がかつてあっただろうか。
名作曲家、ジェリー・ゴールドスミスの音楽も相まって、素晴らしいラストカット。
この余韻で作品のレベルが一つ上がっています。
以上です。だから私は感動しました。
ところで宇宙飛行士の一人を演じているО・J・シンプソン。
アメフトのスーパースターなんですが、その全盛期にがっつり出演しているのが凄い。
そして引退後、妻殺しの容疑で逮捕され、他にも強盗事件などで刑務所に旅立ちました。
今や、彼の出演自体がこの映画の不穏さを増す事に成功している。
更にエリオット・ゴールドとジェームズ・ブローリンの主演二人は後に大女優バーブラ・ストライサンドを妻にしています。
役者陣のプライベートも含めて、ほんと、不思議な魅力のある映画です。
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