公開時に見て以来、二度目の観賞です。
第二次大戦中の日本を背景に、大人の男性を主人公に据えている点で、子供の観客にはとっつきにくい作品とされています。
監督本人も「子供向けじゃない」という理由で当初は制作を拒んだとか。
でも良い映画ですよ。
子供の時にこのような作品に触れておくのも、大事だと思います。
ネタバレ度80%。
未見の方はDVDで! ネタバレ上等な方はお進みください。
分析
飛行機好きな宮崎監督、その好みが十二分に発揮されてます。
監督の生家は航空機関連の工場を経営していたというのも有名ですね。
映画は零戦設計者の堀越二郎さんと、作家の堀辰雄さんの自伝を題材に、主人公が美しい飛行機(零戦)を作るまでを描くストーリー。
監督は「零戦を作るストーリーを縦軸に、妻とのロマンスを横軸に」構成したと語っています。
しかし改めて見ると、映画の前半が零戦の設計、後半が結核女性とのロマンス(ここが堀辰雄さんの妻との自伝エピソードと思われる)に分かれているような印象を受けます。
前半と後半で印象が変わる独特の作品です。
普通なら主人公が零戦の設計、製作に没頭していくのをメインプロットに据えて、女性とのロマンスをサブプロットに置くでしょう。
クライマックスに向けて大きな困難を用意し、それを乗り越えて零戦を完成させる事で盛り上げるのが定石です。
この映画、その定石がまるで通用しない笑
つまりクライマックスらしいクライマックスが無い。
最後に零戦が完成し、仲間たちと喜ぶんだけど、サラッと描かれてて盛り上がりは皆無。
妻との別れも終盤に持ってきていますが、これもサラッと描かれていて、盛り上がりは無い。
結果、主人公の仕事とロマンスを同じ分量で描き、淡々と終わりを迎える。
いつもちゃんとエンタメしていた宮崎監督作品の中では珍しい。
(まあ、最近の作品は段々、盛り上がりは乏しくなってはきてたけど)
エンタメというより、しっとりと見せる人間ドラマの色が強いです。
いつになく盛り上がりが弱いせいで、不満を感じる人もたくさんいたんじゃないかな。
私も見てて、「え? まさかこのまま終わるの?」と思って不安でした。
そうしたら、主人公が零戦の残骸だらけの丘を登り、亡くした妻と再会するシーン(※夢)が始まり、監督のメッセージを直接的に表現して、静かに終わります。
このラストシーン、そしてメッセージが上質な苦みを感じさせ、作品をきっちりとまとめ上げる。
これだけで感動が沁みてくる。さすがだ。
子供に向けたアニメを作り続けてきた宮崎監督だが、初めて自分のために作った映画のように感じる。
好みは分かれる映画だが、私はやはり好きだ。
ここには幼稚にさえ見える、宮崎監督が抱くロマンがある。
そしてこれだけパーソナルな映画でありながら、やはり観客を飽きさせないよう、更に言うと、子供にも楽しんでもらいたいという、丁寧で魅力ある画作りは健在です。
主人公の夢や妄想を織り交ぜながら、疾走感、躍動感、飛翔感を感じさせるカットの数々は宮崎監督ならでは。
特に風の表現には毎度、惚れ惚れする。
結核の女性との恋もベタではあるが、美しい。
宮崎監督は母親が結核だっただけに、色々な思いを重ねて作ったのだろう。
個人的には主人公とヒロインのデートシーンで、非常に好きなやり取りがあります。
ふと、虹を見つける主人公。
「虹なんて、すっかり忘れていた」
「生きてるって、素晴らしいわね」
今まで仕事に没頭していた主人公が、恋によって、世界がカラーになったのだろう。
ヒロインの感受性の高さが感じられる台詞もいい。
このやり取りは恋愛の美しさを十二分に表現している。
好きなシーンです。
私はもう空の青ささえ忘れています。
以上です。だから私は感動しました。
ただ、すいません、主人公の声が庵野監督っていうのだけはちょっと。
棒読みが気になり過ぎます。
宮崎監督の中でイメージにぴったりだったんだろうけど、そこはのれずに残念。
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