「醜聞(1950)」感想。黒澤監督の先見の明が光る、異色の法廷劇!

邦画
引用元 松竹株式会社

黒澤監督が松竹に招かれて撮った作品で、黒澤作品としては珍しい法廷劇。


今回が初見でした。

この作品を黒澤監督の代表作に選ぶ人はほとんどいないだろうけど、面白かったです。


松竹というのもあってか、人情劇、ヒューマニズムが前面に出ていて、ちょっとベタ過ぎるきらいもあるけど、切り口が面白かったので、つらつらと記事を書いてみます。



ネタバレ度70%。
未見の方はDVDか配信で! ネタバレ上等な方はお進みください。


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分析



声楽家の西條(山口淑子)と画家の青井(三船敏郎)の交際記事が出る。

しかし実際は恋人でも何でもない。

身の潔白を証明するため、青井は裁判に訴える。




というストーリーです。



こう読むと、三船敏郎さんが正義感を前面に出して、社会悪と戦っていく姿を描く映画だと誰もが思う。





ところが全然違います。






実はこの映画、青井が依頼する蛭田弁護士(志村喬)が主役になっていきます。


この蛭田弁護士のキャラが秀逸で、この法廷劇をかなり異色なものにしています。




弁護士事務所は雑居ビルの屋上にある吹けば飛ぶようなバラック小屋。


金と酒、ギャンブルに滅法弱く、敵である出版社の編集長に散々奢ってもらっては、罪悪感に悩む最低な弁護士。




「俺は蛆虫だ!」と自己嫌悪で叫びつつ、次の日にはまたたかる。



実際に側にいたら殴ってやりたい。




まるで自分を見ているようだ。




そんな最低男を、志村喬さんが見事に演じている。


「え? これが勘兵衛を演じた人?」と驚くレベルです。

「七人の侍」と続けて見たら、その演技力の振り幅に驚愕するでしょう。




そしてこれぞ黒澤ヒューマニズムなのですが、蛭田弁護士には結核を患った娘がいます。

この娘が天使のように純粋な女性で、蛭田は更に罪悪感を募らせるという構図。


青木(三船敏郎)はこの純粋な娘と接して、「あの娘の父親なら大丈夫だ!」ととことん蛭田を信頼します。




つまりこの映画、この買収された最低弁護士が裁判において、どのような行動に出るのかというのが焦点。

悪人ではなく、人間としての弱さが理由なだけに、観客としてもなかなか憎みきれないのがポイント。





法廷劇で誰かが裏切ったり、買収したりするドラマは数あれど、弁護士がこれほど揺れる映画は見た事が無い。



これこそ、脚本を必ずエンタメに仕上げる黒澤監督ならではのアイデアだ。



何より、週刊誌のスキャンダル記事を訴えるという、このような現代的な題材を昭和二十年代にやっている事に驚きます。



これぞ先見の明。



そして映画はまあ、お約束の展開で進みます。

蛭田弁護士がいつ改心し、勇気を出して自分の罪を告白するかという流れ。


「生きる」の名演を彷彿とさせる志村喬さんのラストの演技は印象に残ります。


隠れた代表作と言っていい。





ちょっとベタ過ぎると言うか、黒澤ヒューマニズムを多分に感じる内容で、脚本は黒澤監督と菊島隆三さんの共作。

この作品の次に「羅生門」を撮り、黒澤監督は世界的評価を得るのですが、その作風の変化に驚く。

「羅生門」から黒澤作品の脚本制作にあの橋本忍さんが加わるんですが、こう見ると、橋本忍さんが加わった事で作品に深み、厳しさが加わったようにも感じる。

まあ、私の思い込みでしょうけども。




そしてこの映画、ヒロインに山口淑子さんが出演しています。

オールドファンなら知っている、世界で活躍された李香蘭です。

美貌はもちろん、その歌声が聴けるのもこの作品の魅力です。



以上です。だから私は感動しました。




あと、この作品、クリスマス映画です。


華やかさは一切無いけど。


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