いきなりですが凄い映画です。
カルト映画の作りなのに、日本でも五十億円を超える大ヒット。
これはもう、色々と説明がつかない。
監督・脚本はトッド・フィリップス。
大ヒットコメディ「ハングオーバー」の監督です。
ジョーカーが売れないコメディアンという設定だからコメディの監督を使ったんだろうか。
でも出来上がったこの作品は全くコメディじゃない。
圧倒的な演出力で見せる社会風刺の効いたシリアス映画。
ブラック・コメディと言えるかもしれないけど。それにしてもだ。
ジョーカーを演じるのはホアキン・フェニックス。
個性派として有名だけど、お世辞にも客を呼べるスターではない。
このキャスト、スタッフでこのカルト作品を作り上げて大ヒット。
色々と説明がつかない。ミラクルやん。
ネタバレ度50%。
未見の方はDVDか配信で! ネタバレ上等な方はお進みください。
読んで見ても面白いよう、大事な部分はざっくりと書きました。
分析
売れないコメディアン、アーサー(ホアキン・フェニックス)がジョーカーになるまでを描く物語。
冒頭、アーサーがこの作品のテーマを語ります。
「狂ってるのは自分なのか、社会なのか」
この映画はこのテーマをこれ以上無い形で見せてくれます。
まず前半三十分、アーサーの現状、その閉塞感の描写が執拗で、凄まじい。
仕事中、いきなり子供たちに襲われ、仕事で使う看板を盗まれ、雇い主に看板を返せと怒られる。
バスで前の座席に座る幼児を笑わせようとおどけたら、隣の母親にかまわないでと注意される。
母親の世話をしながらの生活は貧しく、マンションのエレベーターは途中で止まる。
コメディアンを目指しているが、笑うタイミングが一般人と違う。
絶対に売れないだろう。
こんなまったく楽しくないシーンを冒頭三十分見せ続け、なのに観客は画面に釘づけ。
恐ろしい演出力、そして演技です。
演じるのは凄まじい減量をして、ガリガリのホアキン・フェニックス。
その体から狂気が溢れてる。
突然笑いだす病気を患っているのも全てのシーンで効いていて、生き難さをこれでもかと見せられる。
このキャラクター造形が何より素晴らしい。
そして三十分過ぎ、ピエロの格好をしたアーサーは、電車で絡んできたエリート会社員三人を殺します。
ここからストーリーが動き出すんですが、アーサーは逃げ切った後、何故か一人でおかしな踊りを始める。
このシーン、脚本ではおそらく一行しか書かれてないでしょう。
ストーリー上、無くても成立するシーンです。
それが素晴らしく印象的なシーンになっている。
以後、街の階段とか、色んな場所で踊るシーンが何度も出てきます。
ストーリー上、別にいらないんだけど、どれも印象的。
こういった描写がカルトムービー的色合いを強く感じさせる。
脚本を軽々と越えていく、本物のスタッフ、キャストだからこそ生まれる名シーンです。
見終わった後、この踊りを真似したくなるので注意してください。
私は翌日、派遣先で披露して、二十以上も下の女の子から可哀想な視線を向けられました。
リアル・ジョーカー。
その後、アーサーは出生の秘密を知り、絶望し、更なる殺人が展開されます。
容赦なくがんがん殺し、悪に染まり、ジョーカーになる。
いい人だったのに。
と同時に、民衆が三人のエリート会社員を殺害したアーサーを英雄化し、金持ちを殺せと盛り上がっていきます。
ここ、ジョーカーのドラマだけじゃなく、現実社会とリンクさせているのがこの作品の特異性であり、大きな魅力です。
ジョーカーの映画を作ると決めた折、テーマをどうするかは最重要事項で話し合われたと思います。
悪役を主人公にした場合、他の悪党を殺したりして、感情移入しやすく作るのが普通。
悪VS悪なら見てて不快ではないから。
しかしこのジョーカーは一般人を容赦なく殺す。
辛い境遇をどれほど見せられても、やはりがっつり感情移入はできない。
こんな主人公、なかなか無い。
ヒットが絶対条件の話題作でこれをする。凄い。
その上でこの映画は、殺人者をヒーローとして描くのではなく、人殺しをヒーロー視する狂った民衆を描く。
冒頭で提示されたテーマ。
狂っているのは自分なのか、社会なのか。
誰もがジョーカーになる可能性を示唆している。
相当な力業だ。
見事です。
以上です。だから私は感動しました。
続編の製作が発表されました。
この傑作のようなテーマを新たに見つける事ができたのだろうか?
注目してます。トッド・フィリップス。