ラストシーンにこれほど唸ったのは久しぶりです。
差別、貧困、贖罪など重いテーマを扱いつつ、美しいラブストーリーに仕上げた手腕に唸る。
ネタバレ度90%。
未見の方はDVDか配信で! ネタバレ上等な方はお進みください。
粗筋
息子を自殺に追い込んでしまった事を悔いる看守、ビリー・ボブ・ソーントン。
死刑囚の夫を亡くし、息子まで事故で亡くした未亡人、ハル・ベリー。
孤独な二人が惹かれ合う。
分析
冒頭30分、キャラ紹介と同時に、死刑を行う様子を執拗に見せているのが秀逸です。
正直、サラッと表現してもストーリーは繋がるんですよ。
なのにこれだけじっくり見せるのは監督の執着以外無い。
度々指摘しているけど、こういった監督の執着こそが作品に独特の色を与える。
この作品でもそれが真摯な印象を与え、一筋縄ではいかない映画だと感じさせる。
でも監督が執着した描写がつまらなくてダラダラした作品になる可能性もあるので、そこは監督の力量が問われるところ。
この作品は成功しています。
そしてこの作品の肝、私がとても感銘を受けたラストシーンについて。
ええ、ここについて語りたいがために今回記事を書きました。
ビリー・ボブ・ソーントンが自分の夫の死刑を実行した看守だと知り、様々な負の感情に襲われるハル・ベリー。
その動揺を見事な演技で表現しています。
看守の仕事とはいえ、彼が夫を殺した。
その事実を言わないのは何故か?
自分と出会ったのは、関係を持ったのは、偶然なのか?
本当に自分を愛しているのか?
色んな感情に襲われた事でしょう。
その直後、アイスを買いに行っていたビリー・ボブ・ソーントンが帰ってきます。
放心状態のハル・ベリーに対して、彼は「外の階段で一緒に食べよう」と誘います。
外で待っているビリー・ボブ・ソーントンの元へ、家屋から出てくるハル・ベリー。
さあ、ここからラストはどうなるのか?
まあ、普通の展開ならハル・ベリーは激昂してビリー・ボブ・ソーントンに食って掛かりますよね。
激するあまり、もしかしたら刺殺、銃殺するような展開も考えられます。
感情の爆発、二人の衝突による衝撃のラスト!みたいな流れでしょう。
そう、普通なら。
誰もがこのような展開を想像して身構えるところです。
さあ、どんな表現で来るんだと。
だが、この映画は違う。
家屋から出てきたハル・ベリーはアイスを食べているビリー・ボブ・ソーントンの隣に座り、じっとその横顔を見つめます。
彼女の表情からは、様々な思いに駆られているのが見て取れます。
そして無言のまま、二人はアイスを食べ、静かに美しい星空を眺めます。
これがラストカット。
…凄くない?(何がとか言うな)
星空を眺めるまで、彼女の中でどれほどの葛藤があったのか。
ドラマは葛藤です。
ここをこそ、丁寧に描けと脚本家は教えられます。
だが、この作品はその全てを観客に委ねた。
彼女はビリー・ボブ・ソーントンが自分を愛していると信じたのか。
いや、信じ込もうとしたのか。
それとも金銭や住居など、現実的な問題を前に、負の感情をすべて飲み込んだのか。
答えはわからない。
観客はそんなハル・ベリーの葛藤に思いを馳せ、深い感動に包まれます。
これほど大きな余白を持ったラスト、見た事ありません。
ドラマ表現の最上級を見た思いです。
以上です。だから私は感動しました。
それにしてもハル・ベリーが貧しいシングルマザー役ってのはどうなのか。
こんな美人で超絶スタイルなら男たちが群がるだろう。
その点、ちょっとリアリティが無いようにも思える。
実際いるのか、そんな女性が。
私が気づいていないだけなのか、まだ出会う可能性があるのか。
それは夢がある。
自分がビリー・ボブ・ソーントンかどうかは置いておく。
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