デイミアン・チャゼル監督と言えば「セッション」「ラ・ラ・ランド」の二作が映画ファンに絶賛される若き巨匠(まだ三十代!)。
この新作も当然のごとく、映画ファンの間では公開前から話題沸騰。
しかも公開されるや賛否両論が巻き起こっている問題作です。
私も楽しみにして見てきました。
うん、面白かったです。
ただ脚本に関してはちょっと思うところが色々あったので、今回もつらつらと書いてみます。
ネタバレ度50%
未見の方はDVDか配信で! ネタバレ上等な方はお進みください。
粗筋
サイレント映画全盛時代のハリウッド、大スターのジャック(ブラッド・ピット)、スターを目指すネリー(マーゴット・ロビー)、映画スタッフを目指すマニー(ディエゴ・カルバ)。
三人の栄枯盛衰を描く。
分析
まず冒頭の欲望だらけ、汚物だらけの乱痴気パーティーが見もの。
何もここまでやらなくてもと思うほどで胃もたれ寸前です。
でもハリウッドの狂乱ぶりを上手く表現してると思いました。
撮り方もこの監督特有のカメラワークで惹きつけられます。
その映画界で既に大スターのブラピ、人気女優になっていくマーゴット・ロビー、映画スタッフとして頭角を現していくマニー(ディエゴ・カルバ)。
マーゴット・ロビーはすぐに人気女優になります。
この展開はあっさりしてて、ちょっと拍子抜け。
ハリウッド内幕ものって、大体ここをドラマの肝にするので。
ちなみにこの監督はこうゆう、本来、ドラマにするところをあっさり描く事が多い。
「ラ・ラ・ランド」の主演二人も意外と何の葛藤も無く、付き合い始めるしね。
そして映画はサイレントからトーキーに。
ブラピとマーゴット・ロビーはその変化に対応できず、人気凋落。
悲劇的な結末に向かっていきます。
この映画で疑問に思ったのはこのキャラ配置です。
ハリウッドでの栄枯盛衰を描いていくんですが、人気凋落していくブラピとマーゴット・ロビー、役割がダブってます。
ハリウッド内幕ものって名作も多く、その中でも人気スターの凋落、対峙するように新進俳優が躍進していく様子を描いていくパターンが定石です。
中でも対決パターンは鉄板。
例えば、この映画が参考にしているのが一目でわかる「雨に唄えば」。
更にはアカデミー賞作品賞受賞の「イブの総て」「アーティスト」など。
落ちていくものと昇っていくものを対比的に描くのは人間ドラマにしやすく、光と影を描きやすい。
だがこの「バビロン」では落ちていく二人、(視点人物的な)映画スタッフを一人、主役に配置。
人間ドラマとして焦点が絞りにくいキャラ配置になっている。
特に映画スタッフのマニー(ディエゴ・カルバ)はラストシーンのためだけに用意されたんじゃないかと思うぐらい、キャラが薄い。
この点がこの映画の賛否両論、評価を分けてる要素だと思う。
まあ、汚物まみれのシーンが多いとか、生理的に無理な方もいるだろうけど。
今回、今までの名作のように、ブラピとマーゴット・ロビーを対決させる配置にすれば良かったのにと思いながら、映画を見てました。
それが無理なら、ブラピとマニー(ディエゴ・カルバ)の二人か、マーゴット・ロビーとマニーの二人だけに絞るか。
二人の友情、愛情を軸に描けばまだ焦点を絞りやすい。
ただ、ラ・ラ・ランドと構造が少しダブるなとも思うけど。
でも思うんです。
ハリウッド内幕ものをやるにあたって、私が上に書いたような事は、チャゼル監督も十分にわかっているはずだと。
上に私が挙げた名作たちが、何故名作になったのか、そのストーリー構造なんて絶対にわかっている。
同じようにすればドラマを描きやすい事も。
つまり今回の「バビロン」のキャラ配置はあえてやっている。
本人の確信犯だ。
彼はドラマの焦点を合わせにくいのも分かった上で、この三人を描きたかったんだろう(特にブラピとマーゴット・ロビーね)。
結果、上映時間は当然のごとく長くなる。
ドラマが薄いと批判も出る。
それでもこの三人を描き、あのラストシーンをやりたかった。
監督の溢れる映画愛とセンチメンタリズムをこれでもかと見せてくるあのラストシーンを。
そして私、
こうゆうの、好物です。
以前ブログで書いた「パフューム」とか。
コッポラ監督の「地獄の黙示録」とか。
俗に言う作り手の熱意が溢れる「偉大な失敗作」系ね。
もうこの監督は「セッション」「ラ・ラ・ランド」という名作があるからね。
いいよ、好きにやってくれて。
ドラマの焦点がボケてると言いましたが、それでも三時間以上見せきる演出力はさすがです。
あと、マーゴット・ロビーの狂演がはじけてました。
そこが良かっただけに、終盤、キャラの切なさがちょっと足りないようにも見えました。
好きですけど。
そして当然のごとく、音楽は凄い。
見終わっても暫く耳に残ります。
以上です。だから私は感動しました。
ちなみに、この作品では「雨に唄えば」のシーンがたくさん出てきます。
おそらく監督が大好きな映画なんでしょう。
その「雨に唄えば」では、トーキーの時代になり、甲高い声を笑われる大女優がいます。
映画ではヒロインの敵役なんだけど、最近見直して、不思議とこのキャラに共感しました。
歳をとると、堕ちていくキャラが刺さります。
チャゼル監督もおそらく共感したんでしょう、彼女からインスピレーションを受け、この「バビロン」を、ブラピとマーゴット・ロビーのキャラを作ったんだと思いました。
そう考えると、マニー(ディエゴ・カルバ)はチャゼル監督自身ですね。
だからこそのあのラスト。
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