「スリー・ビルボード(2017)」感想。近年稀にみる、神レベルの脚本に唸る!

サ行
引用元 映画.COM



マーティン・マクドナー監督、脚本作。

アカデミー賞でも主演女優賞、助演男優賞を受賞したクライムサスペンスの傑作です。



メイキングを見ると、役者、スタッフ、誰もがこの脚本を絶賛してます。
私もここ数年では、最高レベルの脚本だと思う。

その凄味が何処にあるのか、ちょっと考えてみたい。



ネタバレ度90%
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分析


フランシス・マクドーマンド演じる母親が、娘を殺した犯人の逮捕を求め、三枚の看板に警察を中傷する内容を記すのが始まり。


この作品が特異なのは、クライムサスペンスという括りながら、被害者遺族である母親と警察の衝突を描いていくというストーリー構成だ。



警察が犯人逮捕に向けて捜査している様子なんて一切出ない。


このパッケージが既に上質なブラックコメディ。


緊迫のサスペンスを期待した観客の中にはここで先ず戸惑って、つまらないと感じた人もそれなりにいると思う。


ここでブラックコメディと認識すれば、作品の印象はガラッと変わる。



そしてマーティン・マクドナー監督が書く台詞の数々が切れ味抜群でとにかく上手い。


フランシス・マクドーマンドに警察署長のウッディ・ハレルソンが犯人逮捕に至らない事を弁解するシーン。


「実は事情がある。俺は癌だ、先が無い」
「知ってる。町中のみんなが知ってる」
「知ってて広告を?」
「死んだ後じゃ、意味無いでしょ」





癌だから何?



ウッディのこの顔も最高だ。



この絶妙のすれ違い、会話の噛み合わなさ、いきなり面白い。





フランシス・マクドーマンドが警察官のサム・ロックウェルに酒場で毒づく。


「ママは何時に帰れって?」
「まだ時間じゃない。十二時過ぎになると言ってきた」


マザコンのサム・ロックウェル。嫌味が通じていない。


面白い。




更に別のシーン。

フランシス・マクドーマンドとサム・ロックウェルの衝突。

「最近も黒人を虐待してる?」
「最近は有色人種と言い換えてる」



彼女の毒が通じていない。


そこへやってくる署長。二人の会話を受けて、フランシス・マクドーマンドに弁解する。

「人種差別する警官をクビにしてたら三人しか残らないし、そいつらはホモが嫌いだ」



一つ一つの台詞に込められた皮肉とユーモア。
そして絶妙の噛み合わなさ。


この脚本、この序盤で既に異常なレベルです。





映画はミッドポイント、署長が自殺して大きく展開します。


署長は妻に遺書を残しています。


「癌で苦しむ俺を看病しているのが君との最後の思い出になるなんて嫌だ」


遺書が妻へのラブレターになっており、静かな感動がある。


この署長の自殺はフランシス・マクドーマンドへの風当たりを強くします。
彼女もまた、自責の念に駆られます。
そんなはっきりしたシーンは無いけど、そう感じさせる演出、演技。

凄い。




ここからクライマックス前までの構成は凄まじいレベル。

例として、サム・ロックウェルに絞って、その展開を列挙します。



サム・ロックウェルは署長の自死に非常なショックを受けて、フランシス・マクドーマンドに看板を貸している白人の青年をボコボコにして二階の窓から放り投げる。無茶苦茶です。

そして呆れる通行人に対して、「俺は白人も痛めつける!」と毒づく始末。

しかしその通行人、実は次の警察署長(しかも黒人)。

サム・ロックウェルは警察をクビになる。


しかし後日、前署長が自分に宛てた手紙があると聞き、夜、警察署に忍び込んで手紙を読みます。
そこには「お前は良い警察官になれる。感情をコントロールしろ」と書かれており、後悔に襲われます。


同時刻、フランシス・マクドーマンドは何者かに看板を焼かれ、その仕返しに、警察署を放火する。


炎に包まれる警察署から、火だるまになったサム・ロックウェルが飛び出してくる。

その手にはフランシス・マクドーマンドの娘の捜査資料が握られています。
これだけは焼かれないようにと。


その様子を見て、絶句するフランシス・マクドーマンド。



ここまでで十分に上手い。だが、まだ終わらない。


入院したサム・ロックウェルはミイラのように包帯を巻かれ、傍目には誰かわからない。
同室に入院しているのは、自分が二階から投げ飛ばして大怪我させた青年。

その青年はサム・ロックウェルとわからずに優しく声をかける。

涙を流すサム・ロックウェル。



何だこの、恐ろしいまでのプロットの流麗さ。

キャラの行動が相互に作用し、シーンの強度がどんどん上がっていく。



これぞ人間ドラマだ。




ここからクライマックスに入るんだけど、犯人と思われた男が実は違う事が判明する。


しかし女性を襲った話を嬉々として話していた様子から、レイプ魔なのは間違いない。


サム・ロックウェルとフランシス・マクドーマンドの二人がこの男を殺しに向かうカットで映画は終わります。



ちょっと煮え切らないラストに思えますが、よく考えると、二人が殺そうとしている男が本当にレイプ魔なのかはわからない。


もちろん、レイプ大好きな鬼畜の可能性はあります。


しかしただの自己顕示欲で、妄想を話していた可能性もあります。実際、前科はありません。





もはやフランシス・マクドーマンドとサム・ロックウェルは誰かを攻撃しないと、自分を抑えられないのかもしれない。



そんな事を思うと、本当に怖い映画です。

豊潤な余白が素晴らしい。


以上です。だから私は感動しました。



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