脚本は坂元裕二先生。
現在、日本の映画、TVドラマ界において、最高の脚本家の一人とされている。
もちろん異論は無い。
むしろ積極的に言い広めたいくらい。
唯一無二の世界観の持ち主で、役者はみんなこの人の脚本作品に出たいだろう。
原作ものばかりの映画、ドラマ界でこれほどの地位を築いている事は本当に凄い。
さて、この作品に関しては「二人の男女がただ恋をするだけの話」と坂元先生はコメントされている。
そう、この作品の素晴らしさは「ただ恋をするだけの話」に徹している事だ。
普通の脚本家ならばどうしても恋の障害を設定したり、ドラマチックな事件なり、展開を用意するだろう。
そうしないと不安だからね。
「ただ恋をするだけの話」でもこの主演二人なら成立する。
そう信じて書き上げて、見事にこの年の邦画実写ナンバー1の大ヒット。
もはや感嘆しかありません。
ネタバレ度50%
未見の方はDVDや配信で! ネタバレ上等な方はお進みください。
でもストーリーよりも描写や台詞を楽しむ映画なのでネタバレしても面白いよ。
粗筋
絹(有村架純)と麦(菅田将暉)、出会って別れるまでの五年間を描く。
分析
「普通の二人が普通に恋をする話」
まあ、この手の映画はたくさん作られていると思うんですが。
「500日のサマー」みたいなタイプね。
傑作にはそうそうならない。
まず良作になるかどうかは「共感できるポイント」がどれだけあるかにかかっている。
この作品に関しては大ヒットして、様々な人が考察を披露する事態になった。
それだけで共感ポイントが多かった事がわかる。
更に言うと、様々な解釈ができるシーンが多かった事もわかる。
そうなのよ。
共感させる事までできて良作になっても、この様々な解釈ができるかどうかというのが傑作になるかどうかの分岐点!
「500日のサマー」はそこが凄かった。
そしてこの作品も傑作になった。そこは疑いようがない。
では、まずは共感させるという事において。
この作品で白眉なのは後半だろう。
麦が就職し、その忙しさから段々と絹と距離が離れていく過程。
特別な仕掛けは無く、丁寧に一つ一つのシーンを紡いでいく。
「毎日五時に帰れる」と思ってたのに、いざ働いたら残業ばかり。
こんなの誰もが共感しますよ。
忙しく、余裕を失っていくのはみんな経験している事だから。
しかし、ここで淡々と、ただただエピソードを重ねるのが凄い。
主演二人の丁寧な演技もあって、じっくりと見られる。
見てよ、菅田君のこの顔。
完全に目が死んでます。
距離が開いていく中、久しぶりにセックスして、愛がなくなった事を痛感する二人の表情がまたいいです。
何一つ説明描写が無いのも素晴らしい。
この余白ね。
そしてクライマックス。
ファミレスで別れを切り出し、確認し合う二人。
しかし途中、麦はやはり別れるのはやめよう、結婚しよう、空気みたいな夫婦になろうと言い出す。
そこで昔の二人によく似た若いカップルが現れる。
その微笑ましい様子を眺めていた絹は店を飛び出し、号泣する。
絹を追って、抱きしめる麦。
この別れのシーンについて、公開当時、ネットで面白い書き込みを見ました。
高校生五人で見て、まだ異性と交際した事の無い男子だけが、「この抱き合ったところで仲直りした」と思ったという。
あー、凄いなと思った。
人によって、その経験によって、シーンの解釈が違う。個人的にはその「仲直りした」と思い込んだ高校生を抱きしめてあげたい。
もう一度言います。
様々な解釈が可能かどうか。
これは共感度の高い作品が、傑作になるかどうかの分岐点!
その点において、この作品は見事に成功している。
そりゃ語り合うよ。
以上です。だから私は感動しました。
ちなみに絹は交際中、浮気したと思います。
別れが決まって、「浮気した事あった?」と聞いてくる女性は間違いなく浮気してます!(※管理人調べ。異論反論認めます)
この点だけでも、語り合うネタになる。
ああ、この余白よ。
おすすめ有村架純出演作品
○「映画 ビリギャル」
人気を決定づけた出世作。
ストーリーは当然予定調和なんだけど、見事な演出と役者陣の演技で泣ける!