「七人の侍(1954)」感想。邦画実写作品では断トツのオールタイムベスト!

邦画
引用元 映画.COM

この作品は学生時代、大阪でリバイバル上映されてるのをオールナイトで見ました。

当時の邦画は今では想像もつかないほどに悲惨な状態で、暗くて、つまらない作品ばかりというのが一般的な評価でした。
ヒットメーカーなんて皆無で、名前を知られている監督なんて森田芳光監督ぐらいだけだったと思う。それでも一般人は知らないレベル。



そんな時代にこの作品をスクリーンで偶然見て、「こんなに面白い邦画があったのか! それも戦後10年も経っていない時期の製作!?」と衝撃を受けました。



以来、実写邦画において、変わらぬ私のオールタイムベスト。

他の黒澤作品も好きですが、この作品は別格です。




ネタバレ度90%
未見の方はDVDか配信で! ネタバレ上等な方はお進みください。

この記事を書いている2023年10月現在、U-NEXTでは多くの黒澤作品が見放題配信されています。



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粗筋

野武士の集団に襲われる農村。
百姓たちは村を守るため、七人の侍を雇う。

分析

脚本を担当したのは黒澤明、小国英雄、橋本忍の三人。


黒澤は脚本家としても一流だが、他の二人も凄いです。


小国英雄は「日本一脚本料の高い脚本家」と呼ばれました。

橋本忍は黒澤作品以外でも活躍し、私見ですが、日本脚本家史上最も多くの名作を書いていると思います。
「切腹」「張り込み」「白い巨塔」「砂の器」「日本のいちばん長い日」など。




ちなみに黒澤作品の脚本制作は、みんなで一緒に練り上げていくやり方ではありません。

一人一人が同じシーンを勝手に書いて、同時に提出。
一番良いと思われるシーンを採用するというシステムだと昔聞きました。



去年、脚本家黒澤明の展示を見に行ったのですが、その時は「隠し砦の三悪人」のシナリオが展示されており、誰がどのシーンを書いたのかがわかるようになっていました。

興奮しましたね。時間が無くてあまり見れませんでしたが。




しかしこの「七人の侍」はウィキによると橋本さんが初稿を執筆。
第二稿は黒澤さんと橋本さんが同じシーンを書き、小国さんが判定していい方を選んだそうなほんまかいな。

脚本を数人で書くシステムを始めた初期だったので色々とやり方を模索していたのかな。




脚本に関してはこの作品、何より侍七人のキャラクターの描き分けが素晴らしく、その登場シーンからしっかりと考え抜かれており抜群に面白い。



例えば志村喬さん演じる勘兵衛の登場シーン。

赤ん坊を人質にする盗人を捕えるため、本人は髪を剃り、坊主に化ける。
そして盗人が油断したところを一瞬で成敗するという、機転と優しさ、剣の確かな技量を見せつけます。



上手い。



ちなみにこのシーンで使用されたスローモーションを見て、サム・ペキンパーがアクションシーンで使用する事を思い付いたらしい。




例えば稲葉義男さん演じる五郎兵衛の登場シーン。

仲間となってくれる侍を探す勘兵衛。
小屋入り口の物陰にて、勝四郎(木村功)に木刀を構えさえ、侍が入ってきたら黙って打ち込むよう、命ずる。
するとこの五郎兵衛、小屋に入るまでも無く、入り口の手前で勝四郎の殺気を感じ、立ち止まる。
更に笑顔で「ご冗談を」と一言。

侍としての力量を何のアクションも見せず知らしめる見事なエピソードだ。




凄い。





例えば加東大介さん演じる七郎次の登場シーン。
勘兵衛とは昔ながらの顔馴染み。
ばったり再会して笑顔で近況を語り合う。
そして勘兵衛が今回の戦の話を振る。
「金にも名誉にもならない難しい戦があるのだが…ついてくるか」
「はい」
どの侍も躊躇するこのメリットの無い戦に、即答する七郎次。




痺れる。





例えば宮口精二さん演じる久蔵の登場シーン。

久蔵が他の侍と木刀で果し合いをする場に、勘兵衛と勝四郎が出くわす。
その果し合いは一見、相打ちに見える。

「相打ちだな」と相手の侍。
「拙者の勝ちだ。真剣ならお主は切られている」と久蔵。

ここで怒った侍はならばと真剣での決闘を迫る。

「無益な。勝負は見えている」と観戦している勘兵衛。

いざ真剣での決闘が始まると、久蔵が瞬殺する。
その見事な腕はまさに剣客(ちなみに本人は剣道経験ゼロ)。

ここ、最初から真剣じゃなく、まず木刀での果し合いを見せているのがポイント。
勘兵衛の一言も含めて、真剣での切り合いの凄味を表現しています。




やだ、カッコいい…。





と、四人の登場シーンを紹介しましたが、これだけでもアイデアを練りに練っているのがわかる。
小説や逸話を参考にしたエピソードもあるんだけど、見事に脚色している。



他の三人の登場シーンもキャラを立たせる見事な描き方です。





そして、この作品の陰の主役である百姓たちの描き方がまた凄い。


この映画、侍VS野武士のわかりやすい構図だけじゃなく、守られる百姓たちの弱者特有のいやらしさ、逞しさをしっかりと描いているのが作品に深み、凄みを与えています。




百姓の一人は侍が村に来ると決まると、一人娘の髪を無理やり切って男に化けさせます。
侍に疵物にされるのを防ぐためです。


自分たちを守ってくれる侍をも内心では敵視しているこのいやらしさよ。





そして七人の侍がいざ村にやって来ると、百姓たちは自分の家に隠れて誰も迎えに出てこない。
「大した歓迎だ」と呆れていると、菊千代(三船敏郎)が野武士の襲来を告げる。
すると、百姓たちは慌てて家から飛び出してきて、「お侍さま~!」と頼る始末。

菊千代は自分の嘘だと告げ、百姓たちを詰る。
これでやっと百姓たちは侍たちを迎え入れる。


この百姓たちの歪な生態。こんなシーン、他に誰が考える? 凄すぎるよ。




やがて侍たちは百姓たちが落ち武者狩りで得た鎧、槍、刀たちを発見。
百姓たちが侍を襲っていた事実を知り、愕然とする。

怒り心頭の侍たちを見て、その心情を理解できない菊千代が「どうしたい?」と尋ねる。
「落ち武者になって追われた者でなければこの気持ちはわからん」と勘兵衛。

ここで菊千代が「百姓をこんなにしたのはお前たち侍だ!」と侍たちを責める。

そう、ここで菊千代が百姓の出である事が判明する。



ちなみにこの三船敏郎さん演じる菊千代というキャラクターは脚本制作が迷走状態だった時に生み出されたキャラクターだという。

この菊千代が生まれて、色んな問題がクリアされたらしい。

侍と百姓の架け橋になるキャラであり、それが最も活かされているのがこのシーンだ。



ちなみに世界の三船敏郎がこれほどお尻を披露している作品は他に無い。
女性ファン必見!




こうして見ると、百姓の描き方が本当にリアルで、一筋縄ではいかない複雑さに富んでいる。




他にも妻を野武士に奪われた利吉のエピソードがいい。

その妻がワンシーン登場するが、一言も台詞が無いのに鬼気迫る名演を見せます。

ここも人間の業がしっかりと描かれており、更には利吉の動揺が平八(千秋実)の死を招き、ストーリーが加速する構成も見事だ。




映画後半は野武士との戦いに入っていくんですが、その野武士たちも思わぬ反撃を受けて動揺し、仲間割れが起こる様子も描かれたりと、この作品は色んな顔を見せてくれます。





やがて戦も佳境に入っていくんですが、その中で木村功さん演じる勝四郎の青臭さが本当にいいアクセントになっていると今回の視聴で実感しました。


決戦前に百姓の娘に誘惑されてしっかりと筆おろしをすませる感じ、いいですね(しかも誘うのは無理矢理髪を切られた娘!)。





クライマックスの雨中の決戦はもはや伝説レベル。

逃げる馬に引きずられる野武士など、迫力のアクションで魅せてくれます。

まさにこれが邦画? あの時代に?と驚くしかない。


ディテールに関して言うと、一本の刀では五人も切れないと、予備の刀を何本も地面に刺しておく菊千代、そのリアリティ。

このように、黒澤がリアルな時代劇を作りたいと勉強した成果が随所に出ています。






そして侍は勘兵衛、七郎次、勝四郎の三人が生き残り、野武士を全滅させます。



日が変わり、百姓たちは大喜びで、歌いながら、田植えをするラストシーン。


平和になると三人の侍は存在価値が無くなり、所在無げに村の様子をただ眺めるだけ。

勝四郎に抱かれた娘も、今やよそよそしくなる始末です。


そんな様子を見て、勘兵衛がポツリと言います。

「今度もまた負け戦だったな」
「え?」
「勝ったのはあの百姓たちだ。わしたちではない」



そう、この戦は、侍たちを利用して生き残った百姓たちの勝利です。





深い、深すぎるぜ…。





これだ。





これが世界のクロサワだ!






以上です。だから私は感動しました。




こぼれ話。

当初、勘兵衛は戦の途中で怪我をして、百姓になる予定だったらしいです。

そうなると一体、どんなラストだったのか。
脚本の紆余曲折ぶり、その苦闘ぶりが知れますね。




4Kリマスター版は未視聴なのですが、音声が格段に良くなってるそうな。見たい!

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