傑作ブロードウェイミュージカルの実写化という触れ込みなんだけど、見てみると何とも妙な、不思議な青春映画。
主人公のエヴァンは愛すべきキャラクターとして描かれるのかと思ったら、嘘を重ねていく姿にいつしか全く共感できなくなった。
でも悪い人間じゃないのはわかる。
彼は弱いだけだ。
そして映画を見終わって気付く。
これは嘘を反省し、懺悔するエヴァンをあなたは許す事ができるのか?と問われているのだと。
ちょっとこんな感想を持った作品は初めてで、いまだにどう評価していいのかよくわからない。
何とも不思議な映画です。
ネタバレ度70%。
未見の方はDVDか配信で! ネタバレ上等な方はお進みください。
粗筋
誤解されたのがきっかけで、自殺した男子学生と友達だったと嘘をついてしまうエヴァン。
エヴァンが語る友情エピソードに多くの者が感動し、彼はみんなの人気者になっていく。
分析
エヴァンは映画冒頭、さえない学生として描かれる。
学校でも全く目立たないスクールカースト底辺。
これだけでもう私の感情移入のスイッチが入った。
共感せずにはいられない。
エヴァンを応援する気満々だった。
そして彼はある誤解から、自殺した同級生コナーの親友だったとみんなに認識される。
エヴァンはそう信じ切っているコナーの両親を前にして、その誤解を解く事ができない。
コナーの妹ゾーイはエヴァンの意中の女子であり、更に嘘だとは言い出せなくなる。
うん、ここまではいい。
エヴァンの不安に私も共感していた。
どうするんだエヴァン!と。
だがコナーの追悼集会で、彼との友情エピソードを感動的に歌い上げ、その様子がSNSで拡散、人気者になるあたりで、ん?と首を傾げる。
思い切りみんなの前で嘘をでっち上げてる。
しかも感動させてる。
さすがにどうなん?と。
挙句、嘘を重ねて意中の女子ゾーイから好意を得て、良い仲になってしまう。
ここまで文章にすればわかる。
エヴァン、リアルなら半殺しにされておかしくないレベルです。
とてもじゃないが、良い奴には思えない。
たとえそれが彼の弱さだとしても。
お前でもそうしただろうと言われても。
ベン・プラットはとても繊細に演じていて、エヴァンが悪い人間じゃないのはわかるけども。
それにしてもだ。
そして嘘を突き通す事はもう不可能というレベルになってようやく、エヴァンは自分の嘘を白状する。
はっきり言って、映画の主人公としては時既に遅しというか、「よくやく白状したか!」というレベル。
本当にこれで傑作ミュージカルなのか?と不思議に思う。
映画はここからエヴァンの反省、懺悔が描かれる。
正直なところ、それも中途半端と言うか、映画としての盛り上がりに欠ける。
エヴァンはただ非難を受け入れるという感じで、それ以上の何かは感じられなかった。
シナリオ的に、エヴァンを多くの観客に好かれるキャラにするチャンスはいくらでもあった。
嘘の友情エピソードを感動的に歌い上げるのではなく、嘘をついた懺悔をみんなの前でして、感動させる道もあったろう。
自分に好意を寄せるゾーイに対して、良い仲になるのではなく、嘘を白状して誠実さを見せる事もできたろう。
他に色々、いくらでも白状する機会はあった。
そこを映画の見せ場にもできた。
白状しない、できないエヴァン、その弱さを表現しているのだと言われればそうなのだが、どれだけの観客がそう好意的に受けとってくれるのか。
しかしここまで描いたからこそ、独特の作品になったのも事実。
そういった意図をしていたのかはわからないけど。
でもね、映画が終わって思ったのよ。
エヴァンに対して、この映画に対して抱くこの複雑な感情は何だろうと。
私の意中の女子に対して、親友が嘘をついて良い仲になった。
怒った私に対して、親友は真摯に反省し、謝ってきた。
その時、私は親友を許せるのか?
と問われている気分になった。
そこで気付いた。
何て恐ろしい映画なんだと。
見る者の器の大きさを問うてくるとは!
青春時代、誰もが多くの人間と出会い、その中には裏切られたと感じ、「こいつだけは許せない」と感じ、疎遠になった友がいるだろう。
しかしあの時許さなかった自分の選択が良かったのかどうか。
今なら許したんじゃないか?
許せばもっといい関係を築けたんじゃないか?
自分がただ小さいだけだったんじゃないのか?
そんな事を今一度考えさせるこの映画、ある意味凄い。
この不安定さと言うか、危うさこそがまさに青春映画だと感じた。
こんな映画無いよ。
以上です。だから私は感動しました。
で、私が好きな女子を嘘をついてゲットした親友。
その親友が謝ってきたら許せるかどうかって話だけど。
絶対、許さないよ。
もう口きかないよ。
器? 小さくて結構!
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