サイレント映画時代のスターや監督たちが大挙出演しているため、オールド映画ファンなら色んなトリビアを楽しめる、厚みのある作品です。
だけど、そんな知識が無くても、強靭なプロットと軽妙な語り口で十分に面白いさすがの名作。
巨匠ビリー・ワイルダーの代表作の一つなんですが、久しぶりに見ると、やはり凄かった。何なんだあのラストは!
ネタバレ度80%
未見の方はDVDか配信で! ネタバレ上等な方はお進みください。
分析
名監督である前に、名脚本家でもあるビリー・ワイルダー。
若い映画ファンの方には馴染みのない名前だろうけど、三谷幸喜さんがリスペクトする脚本家としても有名です。
今回も抜群の脚本で、その語り口には舌を巻く。
ワイルダーはコメディが一番有名なんだけど、それは監督生活後半の作品群(「お熱いのがお好き」「アパートの鍵貸します」など)が対象で、前半はシリアスなドラマも多いです。
ドラマ、コメディ、サスペンス、あらゆるジャンルで傑作を撮っているんですが、今回の作品においてはジャンルさえよくわからない。全ての要素があると言える。
落ちぶれた大女優の過去の栄光への妄執が題材なんだけど、はっきり言って、よくこんなテーマを選んだなと思う。
エンタメにしてヒットを狙うには難しく、それほど魅力的なテーマとは思えない。
しかしそこはさすがワイルダー、そのまま老女優を主役に据えるのではなく、彼女が恋する無名の若い脚本家を視点人物にする事で、軽妙さを出す事に成功。
しかもだ、映画冒頭にこの脚本家の溺死体を出し、半年前に戻ってストーリーを語り始める事で、サスペンスの要素も付け足して観客の興味を引くぬかり無さ。
上手いです。
この辺りのストーリーの切り口や構成からして脚本家として凄みをいきなり見せてくれます。
しかしだ、脚本の上手さ以上に、この映画の一番の魅力は老女優を演じるグロリア・スワンソンの熱演だ。
かつての栄光が忘れられず復活の機会を窺いながら、無名の若い脚本家に恋して、ヒモにする。
その脚本家に自分が主演するシナリオを書かせ、映画会社に送り付ける。
かつての仲間、今や巨匠となった監督に会いにスタジオに出向き、復帰作品の製作を促す押しの強さ。
しかし愛する脚本家が若い女とデキていると知るや、嫉妬に狂い、別れるように画策。
その行動がばれて脚本家に捨てられそうになると激昂し、彼を撃ち殺す。
イタい。イタすぎる。
しかし映画の主人公としては最高だ。
そして女優として過去の栄光に執着するだけでなく、中年女性として若さや男への執着もしっかり描いているところが上手い。
観客が共感しやすい内容にしており、名作と広く認められる理由だろう。
そしてこの伝説の女優ノーマ・デズモンドを演じるのが、本当にサイレント映画の大スター、本物の伝説の女優であるグロリア・スワンソンというのがたまらない。これぞ映画ファン垂涎のキャスティング。
チャップリンの物真似も見せてくれます。貴重!
更にこのノーマ・デズモンドのかつての仲間、今や巨匠となった映画監督セシル・B・デミルを演じるのは本物の巨匠セシル・B・デミルです。
しかもデミル監督は若い頃、グロリア・スワンソンを見出した張本人。
映画と現実がリンクする楽しいキャスティングです。
更にはこのストーリーに抜群のアクセントを付けてくれているのは大女優の召使であるマックス。演じるのはエリッヒ・フォン・シュトロハイム。
この老人が抜群の存在感を発揮しており、一般のファンと偽って女主人にファンレターを毎日送り続けるその忠誠心と愛情は涙を誘うレベル。
そしてクライマックス直前、この召使の正体が明かされます。
何と、三度の離婚歴のあるノーマ・デズモンドの最初の夫であり、若い彼女を何度も撮ったサイレント映画の名監督だという。
これだけで一本映画が撮れそうな見事なキャラ造形。
そしてこのエリッヒ・フォン・シュトロハイム、本当にグロリア・スワンソンを主演に何本も映画を撮った名匠です。
よくこの役で出たな!
と、まあ、主人公であるはずの売れない脚本家、ウィリアム・ホールデンが霞むレベルの魅力あるキャスティングです(ウィリアム・ホールデンは「戦場にかける橋」などの主演で有名な名優ですが、この時期はまだ無名)。
しかしこの映画、そんなトリビアを知らなくても、十分に楽しめます。私もデミル監督しか知りませんでした。
自信を持ってお勧めする、その理由は圧巻のラストシーンにある。
未見の方はどうか楽しみに見ていただきたい。
主演グロリア・スワンソンの鬼気迫る演技を。
女優としての妄執が狂気に変わる瞬間を。
あれはもうホラーだ。
よくこんな見事なラストを考えつくな、ワイルダー、私はあなたの才が怖い。
以上です。だから私は感動しました。
あと、バスター・キートンもゲスト出演してますよ!
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