これは大人には刺さるな…。
これから結婚する若者、倦怠期の夫婦など、大人のあらゆる世代に響くだろう。
何せ独身のイタい中年男性である私にさえ響いたのだから。
ネタバレ度70%
未見の方は配信で! ネタバレ上等な方はお進みください。
分析
事故死した元夫を助けるため、妻はタイムループを繰り返して過去の改変を試みる。
映画のログラインはこれ。
はっきり言ってよくある話だと思う。
名作「バタフライ・エフェクト」とほぼ同じだし。
映画前半、坂元裕二先生は今更何でこんな二番煎じな脚本を書いたんだろうと思って見ていた。
そして映画後半、こうくるかという驚きと共に、流石は坂元先生だなと溜息が漏れた。
素晴らしいよ。
映画前半、事故死した元夫、松村北斗さんを助けるため、過去と未来を何度も往復して奔走する松たか子さん。
離婚したばかりの元夫だが、出会った頃の若い彼はやはり魅力的で、ドキドキするという流れ。
面白く見せるためにコメディタッチの楽しいシーンで見せていきます。
松たか子さんのコメディエンヌぶりを引き出していて、彼女の魅力を堪能するという流れ。

ウインクを繰り返し、ドライアイですか?と返されるシーンとかベタだけど珠玉。
そしてこのプロットなら本来、過去を改変してハッピーエンドとなるのが普通なんですが、この映画では過去は変えられない事を松たか子さんが悟ります。
驚くのはそのシーンを映画中盤、ミッドポイントに置いている事。
え、じゃあ、これから何を見せるの?
そんな戸惑いを感じつつ、松たか子さんは自分と出会わないよう、結婚しないようにすればいいと考えて奔走、これまた失敗。
そして夫である松村北斗さんに自分が未来から来た事がばれます。
更に、彼が十五年後に事故死する未来を告げる。
凄い展開だ。
全く先が読めない。
ここから先がこの作品のテーマであり、坂元先生が描きたかった事なんでしょう。
名作「バタフライ・エフェクト」のその先だ。
そして松村北斗さんは自分が事故死する未来を信じたうえで、あえて改変をせず、松たか子さんとそのまま結婚する事を決意する。
彼女との破綻した結婚生活を、幸せな結婚生活に変えるために。
たとえ15年後に死ぬとしても。
彼は言う。「結果は変えられないが、人生は変えられる」
あまりの素敵さに震えた。

こんな男に私はなりたい(※無理)。
この先の展開、あえて言うまい。
そしてここで気付く。
序盤に不毛な結婚生活の描写をしっかり見せたのは、映画前半に若い夫と再会してドキドキする松たか子さんを見せたかったからだけじゃなかったんだと。
結婚生活に何が大切なのか、それを見せるための前フリだったのだと。
ここまで結婚生活を否定的に描いてきた事が、全て逆転する感動のラスト。
泣けるわこんなん。
結婚生活において何が大事なのか、人生において何が幸せなのかを力強く語っている。
あー、結婚したい。
そして「脚本は小道具」と言われるとおり、この映画でも靴下、写真、メモ用紙など、小道具の使い方が効いています。上手い。
更にはみんなが楽しみにしている坂元節、台詞の上手さも健在。
過去に戻り、若い夫と出会ってロープウェイに乗るシーン。そこで何気なく交わす会話。
「恋は盲目って言うじゃないですか。結婚は逆に解像度が上がります。見逃していた欠点が4Kで見えてきます」
「4K?」
「例えば私が消し忘れた電気を夫はいちいち消して回ってたんです」
「駄目なんですか?」
「最低です」
「すいません」
「相談事をすると君はこうすべきだと言います」
「駄目なんでしょうか」
「相談に必要なのは答えではなく、わかるわかるすごいわかる、です。それ以上はいりません」
「なるほど」
「恋愛感情が無くなると結婚に正しさが持ち込まれます。正しさは離婚に繋がります」
「じゃあ、恋愛感情をなくさなければ」
「恋愛感情と靴下の片方はいつかなくなります」
なぜこんな台詞を量産できるのか、本気で意味が分からない。
脇も良いですね。森七菜さん、吉岡里帆さんなど、贅沢な使い方。女優陣が特に良い。


それでも俺たちの松たか子さんがベストだ。
15年前のシーンではCG処理された若い頃の松たか子さんが現れます。
可愛い…。

CGありがとう。
今回、久しぶりに坂元先生が書きたかったものを書いたんだろうなと素直に感じられた作品でした。
恐らくは奥様に向けたラブレターなんだろうとも思える。
傑作です。
以上です。だから私は感動しました。
こちらはシナリオです。ファン垂涎。
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