若い時よりも、中年になって見ると沁みるな…。
社交ダンスブームを生んだヒット作品として有名なんだけど、中年の青春がテーマなのは珍しい。邦画では特に。
周防監督作品ってベタな笑いと同時に、上品なユーモアを感じるカットも多くて、大人の娯楽作という感が強いですね。
もっとたくさん作品を発表して欲しいです。
ネタバレ度60%
未見の方はDVDか配信で! ネタバレ上等な方はお進みください。
分析
この映画、周防監督のオリジナル脚本なんですが、社交ダンスという題材を見つけたのがまず何より慧眼。
そしてその社交ダンスをカッコいいものではなく、「習う事が恥ずかしい」「女目当てと思われるのが当たり前」「会社には内緒」という、ちょっとダサいものとして描いているのが上手い。
コメディとしての導入は万全だ。
主人公の役所広司さんは愛する妻と娘を持ち、念願のマイホームを購入。
そんな幸せ真っただ中、偶然、社交ダンス教室に草刈民代さんを見つけ、その美貌に惹かれて、教室に入会する。
これ、役所広司さんだから許されるが、私ならアウトだ。
そしてダンス教室に通いだすが、草刈民代さんへの好意がダダ洩れで、みんなにばればれ。
ある日、授業を終えて駅で電車を待っていると、彼女への好意が抑えられなくなり、たまらず教室に戻る。
そして彼女が教室から出てくるのを待ち伏せし、食事に誘う。
そこではっきりとフラれる(当たり前だ)。
更には「私目的でダンス教室に通っているなら困るんですけど」と完全にキモがられる始末。
役所広司さん、やっている事はストーカーです。アウトです。
ここでフラれた事で意地になって社交ダンスを続けるんですが、このストーカー主人公が万人に受け入れられた事には、時代の大らかさを感じざるを得ない。
今なら「主人公が気持ち悪い」とかXで確実に言われるだろう。
良い時代でした。
そしてこの映画の面白さは、社交ダンスにのめり込む主人公を描くのと同時に、妻や娘をしっかりと描いているところ。
特に社交ダンスを始めたことで、妻の原日出子さんとの関係性に変化が生じるんですが、その流れを丁寧に描いてるのが出色です。
ダンスにはまる事で生き生きとしていく夫、その様子を見て浮気を疑い、シャツの匂いを嗅いだり、果ては柄本明さん演じる探偵を雇ったり。
真面目過ぎるから少しは遊んでほしいと映画の冒頭では言っていたのに、いざ趣味を見つけて生き生きとしだしたら、焦りだす原日出子さん、抜群に可愛い。
フラれてから社交ダンスに真摯に取り組む役所広司さん、通勤途中、駅のホームでも練習したり、自然とはまっていきます。

この過程をしっかりと、わざとらしいエピソードじゃなく、丁寧に映像で見せているのは周防監督、流石です。
こうゆうところが、上映時間の長さを感じさせなくするんですよね。
そしてダンス仲間の渡辺えり子さんと竹中直人さんのコメディリリーフはもはや円熟の極み。ベタな笑いは任せろと言わんばかりに暴れてます流石です。

そして映画は中盤、役所広司さんと渡辺えり子さんがカップルを組み、大会を目指すという流れ。
渡辺えり子さんの真摯な思いに打たれて猛練習を始めるんですが、そこで草刈民代さんから指導を受けるようになります。

ダンスに真剣に打ち込む役所広司さんを見て、草刈民代さんも徐々に心を開いていく。
ここから草刈民代さんの変化、成長も描いていきます。
実は彼女がもう一人の主人公。この二重構造が凝ってますね。
女優さんではないので演技力はさすがに物足りないけど、踊るシーンでの本物感はやはり半端ないです。美しい。
彼女の葛藤が描かれるようになる映画後半は、ダンス映画らしい躍動感が出てきます。
こうして役所広司さんと草刈民代さんの間にも、いつしか信頼が生まれていきます。
ある夜、彼女は何故きつい言い方でフッたのにダンスを続けたのか、彼に尋ねる。
ここで役所広司さんは正直に思いを語ります。
「結婚して、子供も産まれ、マイホームも買った。自分は幸せなんだと思う。でも、これから何をすれば?」
役所さんの演技力もあり、おそらくは多くの中年男性の共感を誘うシーンです。私とすれば「それが悩みか!」と言いたくなりますけど。
役所さん、爽やかな笑顔で草刈民代さんに語ります。
「私はあなたに惹かれて、ダンスを始めた。だが今ではダンスに夢中だ」
良い感じの台詞に聞こえますが、妻子持ちの中年男性が言っていい台詞ではありません。
ただ、異性目当てでスポーツを始めて、がっつりはまるというのは「スラムダンクの法則」です。
しっかりとエンタメの方程式でストーリーを展開しているのは上手いところ。
そして役所広司さんは渡辺えり子さんと出場した大会で大きなミスをして、結果、ダンスを辞めます。
ここから再起を願う周りの者たちの励ましや家族の思いを受けて、映画はクライマックスへ。
周防監督の円熟の演出が存分に発揮され、全てのキャラクターに愛を注ぐ、多幸感溢れるラストシーンまで完璧な流れ。

凄いですよ、ラスト、気付けば探偵の柄本明さんまで踊ってますからね。
ジャパニーズコメディのお手本、ここにあり。
以上です。だから私は感動しました。

参加しています。記事を気に入ってくれた方、ぽちっとお願いします!