名脚本家ポール・ハギスが監督、脚本を担当。
実際にアメリカ国内であった事件から着想を得たストーリーで、反戦をテーマにしています。
そのためだろう、かなり硬派、言い換えると地味な作りで、「ミリオンダラー・ベイビー」「クラッシュ」なんかの代表作に比べると少しインパクトに欠ける印象。
それでもやはり凄いなあと思わせる脚本でした。
何よりディテール、キャラクターの掘り下げ。
その辺をつらつらと書いてみます。
ネタバレ度50%
未見の方はDVDか配信で! ネタバレ上等な方はお進みください。
分析
ますは主人公を演じるトミー・リー・ジョーンズ。
日本ではもうお馴染みのベテラン俳優。
元軍警察に勤め、今は隠居生活。
軍を離れ、行方不明になった息子を彼が捜すというストーリーなのですが、このトミー・リー・ジョーンズが現役の刑事顔負けの捜査力、推理力を発揮します。
息子はバラバラの遺体となって発見されるんですが、その殺害現場を特定したり、息子の軍隊仲間たちの嘘を見抜いたりと、実に鮮やか。
隠居生活のお爺さんがこのような能力を発揮すること自体、エンタメとして面白い。
サスペンス映画として見やすくし、緊張感を持続させるための、ポール・ハギスならではのキャラ造形でしょう。
そしてこのトミー・リー・ジョーンズの妻役のスーザン・サランドンが良い。
出番は少ないながら、息子を失った悲しみを迫真の演技で感じさせてくれます。
バラバラにされた息子の遺体を見て、「これだけ?」とたった一言漏らすリアリティ。
もう一人の息子も戦争で失っており、「せめて一人は残して欲しかった」と夫を詰る。
この何処にも向けられない怒り、悲しみを吐露するその演技、流石です。
そしてトミー・リー・ジョーンズの相棒的存在になるのは女性刑事のシャーリーズ・セロン。美しいです眼福です。
シングルマザーで、仲間からはセクハラ、冷やかしを受け続けている日常。
そのあまりの美貌ゆえに体で出世したとか言われ、ろくな事件の捜査が回ってこない。
この辺りの描写は非常に具体的に表現されています。
ただ罵倒や冷やかしの言葉を受けているだけじゃない、しっかりとそのろくでもない事件の案件を見せる脚本の上手さに注目したい。しかも後々、ストーリーに効いてきたりします。
ちなみにシャーリーズ・セロンって特殊メイクしたり、わざと太ったり、丸坊主にしたりするイメージが強すぎて、本来の美貌がわかりにくかったりするんですが、この映画では凛とした美しさに見惚れます。
この主要三人だけ見ても、ポール・ハギスのリアルなキャラ造形がわかる。
他にもシャーリーズ・セロンの息子は、ドアを少し開けてないと眠れない。
このようなディテールの積み重ねが映画にリアリティを加えていくという事実。
この脚本によって痛感させられます。
そしてストーリーでは、トミー・リー・ジョーンズが必死の捜査の末、犯人と思われる男を捕えるが、証拠が見つからず事件は暗礁に乗り上げる。
だがその八方塞がりの中、息子の仲間が自殺します。ここがクライマックス前。
ここから事件の真相が明かされていきますが、脚本家ポール・ハギスの反戦メッセージが力強い描写で表現されます。
戦争によって狂わされていく、狂わないとやっていけない、その心の傷。
犯人の自供、瞬きをしない無表情で懺悔するその姿は圧巻だった。
ラスト近く、息子の軍隊仲間の台詞が凄い。
「紙も無く、トイレでは自分の手で拭く。何もかも狂っている。だが不思議だ、戦地から戻ってきて二週間、もうイラクに戻りたくなっている」
リアルで、そして重い。
是非未見の方はじっくりとその狂気を感じて欲しい。
「映画の神はディテールにやどる」とよく言われます。
それほど名作認定されていない今作ですが、そこはポール・ハギス脚本、何気ない台詞や所作など、細かいところまで神経が行き届いているのを感じます。
そして作品にリアリティを与える具体的な会話。
特に主役のトミー・リー・ジョーンズの台詞は含蓄がある。
国家を逆さに掲げた時の意味。
シャーリーズ・セロンの息子に語って聞かせる、ゴリアテとダビデの物語。
息子の軍隊仲間に笑って聞かせる、寒い中で歩哨に立つ折の対処策。
何気ない会話のあちこちに脚本家の圧倒的な知識量を感じます。
それが作品の奥行き、ユーモアに昇華している。
以上です。だから私は感動しました。
ただ、とても硬派で上質なこの作品、何故名作認定されていないのかとも思う。
考えて見ると、トリー・リー・ジョーンズが現役刑事顔負けの推理力を見せる前半、とても硬派な内容を見せる後半とで、肌触りが違う印象も受けます。
もしかしたらトミー・リー・ジョーンズのキャラ設定はもっと普通の、不器用な父親の方がリアルに観客に響いたのかもしれない。
そう考えると、脚本とは難しいものだと、あらためて感じました。
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