父親と嫁いでいく娘との関係を描く、小津映画らしい小津映画。
原節子さんの初登場、脚本家野田高梧さんとの共同脚本、ローアングル撮影など、小津映画のスタイルを決定させた映画とされています。
今回はデジタル修復版を視聴。
映像はかなり美しく蘇っており、堪能しました。
ネタバレ度80%
未見の方はDVDか配信で! ネタバレ上等な方はお進みください。
この記事を書いている2023年12月現在、U-NEXTでは見放題配信されています。
DVDで観賞したい方は私も利用している宅配レンタルがお勧めです。
分析
嫁ぐ娘と父親のドラマといえば、小津映画のスタンダード。
その中でも原節子さんの美しさも相まって、小津映画の最高傑作とされる事も多いです。
「東京物語」は群像劇で、小津映画の中でも異色作なので。
映画は序盤、二人で暮らしている父親(笠智衆)と娘の紀子(原節子)の日常を丁寧に描きます。
特に魅力的な展開もシーンも無いなあと思って見ていたんですが、映画中盤のミッドポイントから大きくドラマ性が跳ね上がります。
叔母(杉村春子)が父親に再婚してもらおうと、女性を紹介しているのを紀子は聞きます。
紀子は潔癖であり、父親に限らず、「再婚」そのものを毛嫌いしています。
映画冒頭、馴染みである父親の友人が再婚したと聞いて、本人を前に「不潔」だとはっきり言うほど。
そんな紀子なだけに、父親が再婚するかもしれないと聞いて、ご機嫌斜めに。
紀子は自分の結婚よりも、今のまま、父親と二人で暮らしていく事を望んでいます。
それが自分の一番の幸せだと。
それでも父や叔母は当然、紀子に早く嫁に行ってもらう事を願っています。
父親は娘が何故不貞腐れているのかわからない。
ここから父と娘の静かなバトルが始まります。
この展開は面白い。
てっきり娘を嫁がせるために、父や叔母が奮闘する流れかと思ってました。
同じテーマである小津監督の遺作、「秋刀魚の味」とかはそうです。
それが何故か、娘が父親に嫉妬するという、なかなか無い展開が興味深く、面白いです。
この後、父親と娘で能を見に行くんですが、その場に叔母が父に紹介した女性もいて、娘はますます不機嫌に。
このシーン、無言で心情の細かな動きを表現する原節子さんの演技が素晴らしいです。
日本を代表する美人女優の凍るような冷たい視線は、相当な演技派だと気づかせてくれます。
その夜、父親は娘にお見合いを勧めます。
娘は「私がお嫁に行ったらお父さんどうするの、自分の世話できないじゃない」とお見合いを拒みます。
すると父親は自分も再婚する話があるから大丈夫だと告げます。
だから自分の心配はしなくていいと。
突き放されたような気持になった紀子は、お見合いを承諾します。
で、次はどんなお見合いになるかという流れのはずなんだけど。
驚きです、お見合いのシーンは全く無く、お見合いした一週間後にシーンは一気に飛びます。
この省略が非常に上手い。
結婚相手の男性は結局、一度も出てきません。
中盤からちょっと他に無いドラマ、シーン展開を見せ、脚本の妙を感じます。
そしてお見合い後、一週間経っても、紀子は返事をしない。
紀子が何を考えているのかわからない父と叔母は乗り気じゃないのかと心配します。
お見合い相手の「熊太郎」という名前を気にしているんじゃないかと、大真面目に話している様子が面白い。
結果、紀子は結婚を承諾します。
そして父と娘、水入らずの京都旅行がクライマックス。
ここで娘は「お父さんと暮らしたい」と最後の抵抗をしますが、父は「自分の新しい幸せを見つけさなさい」と諭す。
父親の娘の幸せを願う気持ちが溢れる名シーンです。
そして無事に紀子は結婚。
父親は結婚式の帰り、紀子の友達と飲み交わす。
「紀子、おじさんの再婚を凄く気にしてたわよ」
「あれは嘘だよ。ああでも言わないと、嫁に行こうとしないからね」
泣ける。
サスペンス映画ばりのどんでん返し。
その優しい嘘に、全父親が泣く(※私は父親ではないけど!)。
ラストカット、虚無の極致ともいえる笠智衆さんの横顔が沁みる。
以上です。だから私は感動しました。
ちなみに映画はディテールとよく言われますが、笠智衆さんと杉村春子さんが並んで歩いているシーン、杉村春子さんが財布を拾って、「縁起が良い」と懐に入れるシーンがあります。
「届けないのか」と呆れる笠智衆さん。
「届けるわよ」と言いながら、怪しく笑う杉村春子さんが抜群。
ストーリーに全く関係無い。
小津映画はこの手のシーンが多いんだけど、それが小津映画の魅力になっています。
奥行きがある。
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