「君たちはどう生きるか(2023)」感想。イマジネーションの大洪水、宮崎監督、80歳を超えてこのやんちゃぶりは流石です。

邦画
引用元 映画.com

いきなりだけど、「偉大な失敗作」だと思う。

コッポラの「地獄の黙示録」みたいな。




ストーリーの構成要素が多すぎて、キャラ配置も相互作用が弱く、よくわからなくなっている。

その中で宮崎監督が吐き出すイマジネーションは圧倒的で、もはや暴力的ですら。



80歳を過ぎてこんなやんちゃをするのかと。
その溢れんばかりの想像力を見せつけられて、呆然となる。



この作品、一般ウケは難しいと思うし、宮崎監督の代表作に選ぶ人もほとんどいないだろう。


それでも凄い作品でした。流石でした。


ネタバレ度80%。
未見の方は劇場へ! ネタバレ上等な方はお進みください。

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分析

序盤の冗長さは逆の意味で驚いた。

いつもはテンポ良く進む宮崎作品だが、ポップコーンを食べるのを躊躇うほどに静謐で、話が進まない。

退席する客もいたほどで、序盤から凄まじく不安になった。





全体のストーリーもまとまりがなく、正直なところ、他人にどんな内容だったのか説明するのさえ、苦労するレベル。


主人公が継母を救いに異世界に入り込む話と思って見ていたら、気づけば世界を救う、継承するという大きな内容に変わっていた。



そのため、主人公と継母との関係性がストーリーの主軸になるはずなのに、中途半端な描き方に終始して、何もカタルシスを得られないまま終わる。


更に言うと、話が進む毎にどんどん新キャラが出てきては消えていき、どれも印象が薄い。

バディとなるアオサギの描き方も半端で見せ場が無く、勿体なさが残る。






ここからは憶測だけど、おそらくは最初は継母を救いに行く単純なストーリー展開で構想したんじゃないだろうか。


それは宮崎監督にとってとてもパーソナルな内容になる。

監督の母親は幼少時、結核で療養。
「となりのトトロ」の母親のような状況だったらしい。


最後になるかもしれない作品で、そのパーソナルな題材を持ってきたのは自然な流れだろう。



しかし自分のマザコンぶりをさらけ出す事に気恥ずかしさを感じたのか、直視できなかったのか、そこで世界を救う、というような大仰な展開を付け足した。


そこが上手くリンクせず、十分に消化できないまま、進んでいったのではないか。





本来、脚本というのは観客にわかりやすくするため、制作過程でストーリーの構成要素をどんどん減らしていくのが定石だ。
構成要素が増えるほど、技術が必要になってくる。

ここをしくじると、「何がやりたいのかわからない」という内容になる。
やりたい事の多い、理想の高い若手脚本家たちがよく陥る落とし穴だ。


ちなみに「となりのトトロ」のシンプルさは凄まじい。
だからこそ、宮崎監督の表現力が存分に発揮され、その芸術性が評論家たちにも絶賛された。




今回、宮崎監督はストーリーの構成要素を増やし、その全てがリンクする最適解を見つけられないまま、そこを自覚した上で、圧倒的なイマジネーション、その映像の力でねじ伏せにいったように感じる。



そしてそのねじ伏せにきた映像の力は確かに圧巻だった。


ストーリーやエンタメの呪縛から解き放たれたその表現は宮崎監督の天才ぶりを遺憾無く発揮して、もはや言葉を失う凄まじさ。






しかしだ。



見た後に、「で、結局何だったの?」という消化不良感がある。




何を描いてもエンタメに仕上げてきた宮崎監督が、初めて見せた「混乱」。

それでも藻掻いて藻掻いて完成させたこの作品、だからこそ、今まで感じられなかった宮崎駿の人間味に溢れている。




その意味で「偉大な失敗作」だ。



タイトルの印象から、よくある年老いた巨匠の説教臭い映画だろうと思ってみたら、真逆だった。

悩み、藻掻き、苦しんでいた。


そして正直に、「わけがわからなくなった」と告白している。

改めて、凄い監督です。



以上です。だから私は感動しました。






余談というか、完全に私の思い込みですが、監督のこの混乱は「鬼滅の刃」に興行収入記録を抜かれた事も大きく関係しているように見える。

鈴木プロデューサーが以前、「宮崎監督が悔しがっていた」と何かで語っていた。

非常にパーソナルな、小さな映画を作るつもりが、大ヒットを狙って、ストーリーを大きくしていったように感じる。

更に言うと、自身最大のヒット作「千と千尋の神隠し」の方法論を加えていったように思う。

同作との類似性は観客の誰もが感じるところだろう。




そして今回、それが成功したとは言い難い。

だがその負けん気は素晴らしい。表現者にプライドは必要だ。



勝手な憶測ですけど。




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