「キリエのうた(2023)」感想。岩井俊二監督健在ぶりをみせつける美しき青春映画!

邦画
引用元 映画.COM


岩井俊二監督って、ある時期、日本映画の希望的なポジションだったんですよね。


90年代は80年代ほどじゃないにしても、絶望的に邦画の人気が低く、「とにかく暗くて地味」という印象が強かった。


そこに彗星のごとく現れ、圧倒的な映像の美しさでエモーショナルな青春映画、恋愛映画を撮る岩井俊二監督の存在は特異で、はっきり言って北野武監督以上に世界的名匠になる予感を映画ファンは抱きました。


何がウォン・カーウァイだ、日本には岩井俊二がいるぞ!と。



長編第一作目の「Love Letter」は韓国で爆発的人気を得たと聞いています。

でも、その後の「スワロウテイル」をピークに、徐々に話題になる事が減っていったように思う。


色々と理由もあるんだろうけど、作品から青臭さが減っていった事で、魅力が薄まっていったように思う。


まあ、岩井監督も歳を重ねるわけで、大人な作風になっていくのは自然な流れなんだけど。


それでも今回の「キリエのうた」は昔の青臭い岩井俊二演出が戻ってきているように感じて嬉しかった。


でも作品として歪な感もある。その辺を少し書いてみようと思います。



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分析



今回、岩井監督がこのド直球の青春映画を撮ったのは、アイナ・ジ・エンドさんというミューズを得たのが大きいと思います。



そう、「スワロウテイル」のCHARAさんに代わる新たなミューズ。


彼女が歌っている姿を情感たっぷりに撮る、おそらくこの映画の出発点はここだ。


そして彼女が一番輝くような設定、ストーリーを紡いでいったんだと思う。


そして監督の思惑通り、彼女の歌声は圧巻で、この映画の魅力のほぼ全てを担ってます。


本当に素晴らしいです。ありがとうございました。





と、ここでブログを終わりたいところなんだけど、シナリオに関しては色々と思う事があるので続きます。




岩井作品は美しい映像と音楽が特色なんだけど、その反面、あまり中身が無い。

そこで抱く虚無感も含めて、岩井作品の魅力だと思ってます。


岩井作品は昔から若い映画ファンの熱狂的支持を得ているけど、評論家や映画祭がスルーしているのはその「中身の無さ」が理由だ。




そして今回も3時間近い大作ながら、あまり中身は無い。




この映画、アイナ・ジ・エンドさん演じる路花(るか)が震災で受けた傷、そこからの再生の物語というテーマでいいはずなんだよね。





ところが震災関連が出てくるのは映画の中盤以降、前半は広瀬すずさん演じるイッコとの友情を淡々と描いている。




そして映画は結局、女子二人の友情物語、という趣で終わります。




震災からの再生、女子二人の友情、この二つのテーマを同格で並べたせいで、お互いを中途半端にし、結果、あまり中身が無いように感じる結果になっています。



まあ、岩井監督らしいなあと思うんだけど。




何でこうなったか考えると、アイナ・ジ・エンドさんを魅力的に撮りたいという衝動と同時に、広瀬すずさんもたくさん撮りたいという衝動を岩井監督が捨てられなかったんだと思う。


まあ、確かに可愛いから。


でもこのイッコというキャラはやり過ぎ感がある。

衣装も、その素性も。

アイナ・ジ・エンドさんという強烈な個性と並べるには、これぐらいする必要があったんだろう。

そして描き方が表面的なため、彼女の顛末に特に共感できないまま終わる。



映画としてはこのキャラが邪魔をして、テーマをぼかしてる。

路花の震災からの再生をちゃんと描くならこのイッコというキャラは実質いらない。ましてラストシーンはああはならない。

女子二人の友情ものなら、震災をあんなにリアルに描く必要は無い。まして題材にする理由も無い。



でも、なのにやっちゃうんだよね、岩井監督は。



そこが魅力なんだよ。作家性なんだよ。

結果、欲張り過ぎて3時間近い大作になる。なのに、内容があまり印象に残らない。



ラストシーン、雪原に横たわる美少女二人、その一人のアイナ・ジ・エンドさんがアカペラで歌い出す「さよなら」が震えるほどに素晴らしかった、美しかったというようなストーリーにあまり関係無い印象ばかり残る事になる。




でももう一度言う。






これが岩井俊二監督作品の魅力なんだよ。




それでいいんだよ。カンヌやベルリンなんて興味無いんだよ。本当はあるだろうけど。



以上です。だから私は感動しました。



てか色々書きましたが、還暦迎えてもなお、この瑞々しい感性、岩井監督、本当に凄いです。

唯一無二の才能が確かにある。



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