「イニシェリン島の精霊(2022)」感想。傑作だが気が滅入る。いや、これほど気が滅入るから傑作なんだ!

ア行
引用元 映画.com


マーティン・マクドナー監督の新作なんですが、前作「スリー・ビルボード」のようなダイナミズムはありません。


そこを期待すると肩透かしを食らう。


それでも違った種類の傑作でした。


ネタバレ度80%
未見の方はDVDか配信で! ネタバレ上等な方はお進みください。


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分析


マーティン・マクドナー監督は脚本家としても超一流で、この作品でもゴールデングローブ賞脚本賞を受賞しています。



しかし驚いたな、中年男性二人の痴話喧嘩を二時間見せられるとは。


この内容を二時間面白く見せるのは至難の業だろう。

しかしそこはマクドナー監督、やはり脚本が抜群だ。




映画は冒頭、ブレンダン・グリーソンが友人コリン・ファレルに「俺に二度と話しかけるな」と言い放つ。


二人のキャラ紹介や、喧嘩の原因を描くわけでもなく、いきなりだ。



ブレンダンが更に言う。「お前は退屈だ」と。「時間の無駄だ」と。


「この前は二時間も馬の糞の話をしていた」



するとコリンが反論する。



「違う、ロバの糞だ!」




コリンよ、そうゆうところだよ。


この辺りのやり取りはマクドナー印。ブラックな笑いが効いてます。


そしてこのやりとりだけで、コリンが本当に退屈な男だと分かる。





突然、疎遠になる友人同士。その戸惑い、葛藤を描く映画は普通、青春映画のテリトリーです。

最近では「クロース」なんかそうですね。

少年二人がちょっとしたきっかけで疎遠になる。非常に切なく、美しい映画でした。



今回はそれを中年男二人でやっている。


少年二人に比べて、みすぼらしく、みっともなさが際立つ。



大人になってガキみたいな事するなよとも思う。



でも、ふと思う。



大人になっても同じような事してるんですよみんな。リアルで。



ある日突然、無視される事はある。


「こいつ、もういいかな」と思って距離を置く事もある。



ツィッターなんて見てれば、「昨日まで仲良くやり取りしてたのに突然ブロックされた。何で? 私、何かした?」みたいな投稿を何度も見る。



ここに青春映画のような切なさ、美しさは何処にも無い。


だからこそこの映画はリアルなんだ。


しかし先に書いたけど、映画として中年男二人の痴話喧嘩を面白く見せ続けるのは相当に難しい。



そこはさすがマクドナー監督、構成上、しっかりとフックをかけている。


何とか仲直りしようとするコリン・ファレルにブレンダンが告げる。



「お前が俺に話しかける度に、俺は自分の指を一本ずつ切り落とす」と。




そこまで?



喧嘩に妙な緊張感が生まれる。このアイデアは流石だ。



実際、私ならこんな事言われたら呆れて距離を置きますが、コリン・ファレルはそうじゃない。



コリンは仲直りを諦めません。




部屋を覗いています。何なんだその顔は。







そして中盤、映画のミッドポイントでブレンダンは本当に指を一本切り落とす。




ただの言い争いに身体的苦痛が加わり、映像的なインパクトも十分。


周囲もただの喧嘩じゃないと困惑し、その狂気に怯えだす。


映画として娯楽性を増す事に成功した、見事な展開です。




さすがにコリン・ファレルも話しかけるのをやめるんですが、まだ仲直りを諦めない。







いや、諦めろよ。




ここまでくると、諦めないコリン・ファレルにも狂気を感じる。

完全にストーカーだ。だが実際、しつこい奴はいる。リアル。





そしてコリン・ファレルは酔っぱらって悪態をつくんですが、その折の事をブレンダンが面白がっていたと聞き、勝負に出る。




なんと、ブレンダンの家に出向き、素面で悪態をつきまくるのだ。




結果、ブレンダンは残った四本の指を切り落とし、コリン・ファレルの家に投げつける。



ブラックが過ぎるぜ、マクドナー監督!




そして監督は更にフックをかける。


コリン・ファレルの愛するロバがブレンダンの指を食べて詰まらせてしまい、死んでしまう。





ここで立場が逆転する。


コリンは怒り、ブレンダンは罪の意識を抱く(それもどうなんだとは思うが)。



そして映画はクライマックスへ。

コリンはブレンダンの家に火を点けて、お互いもう戻れない地点まで行ってしまいます。







なんて気が滅入る映画なんだ。だからこそ、傑作だ!


もう一度見たいとは思わないが。




そんな狂気の映画ですが、警官にボコられたコリン・ファレルを無言で助け起こすブレンダンのシーンは美しかった。


疎遠になっても、嫌いなわけじゃないという微妙な感情が表現されている。


直後に泣きだすコリン・ファレルに笑ったけど。





コリン・ファレルの妹役、ケリー・コンドン、良かったです。

ブレンダンに食って掛かるところが良い。


「兄は優しい人よ!」

「だが退屈だ」

「この島には退屈な人間しかいないわ!」


何故だ、ギクッとする。





そして助演で出てる我らがバリー・コーガン。相変わらず変人役が上手いですもうそうとしか見えない。


プライベートでは幸せになって欲しい。





島のロケーションも美しかったですね。聖地巡りしたくなります。



以上です。だから私は感動しました。




退屈な人間にならないようにしないと。そのためには自分をしっかりと形成する事だ。無理だ。


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