「クロース(2023)」感想。誰もが持つ、友人を遠ざけた苦い過去を掘り起こされ、悶絶する傑作。

カ行
引用 映画.com

去年上映された映画ではベスト級。

演出、脚本、演技、撮影、全てが高水準で本当に美しいです。


ミニシアター系でそれほど知名度が高い作品ではないんだけど、お勧めする意味でもつらつらと書いてみます。



ネタバレ度80%
未見の方はDVDか配信で! ネタバレ上等な方はお進みください。

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分析


この手の繊細な映画でシナリオについて書くのは野暮なのだが。でも、書きます。





レオとレミ、仲の良い少年二人が、周囲から「付き合ってるの?」と冷やかされ、友情に亀裂が入りだすのが映画開始十分過ぎ。

なかなかに展開が早い。


普通ならしっかりと二人の友情や、家族との関係を30分近く描くところだ。

これだけで好印象です。

説明不足を感じないという事は、とても自然に世界観を、人物を表現できているという事だから。




そしていきなりネタバレになるんですが、







レオはレミをどんどん避けるようになっていき、突然、レミが自殺する。



ここが開始45分。




ちょっと驚きました。
104分の上映時間、まだ半分も進んでいない。

ここまで、本当に展開が早いです。



この手の青春映画って、友情が壊れていく様子、その変化をじっくりと描いていくのがスタンダード。


つまり自殺というショッキングなエピソードが来るのは、クライマックス直前か、ラストです普通は。




正直、ここからどうするの?と思いました。
あと一時間近くもある、一体、何を描くのか?

しかし逆に、傑作の予感も感じました。



このブログでもよく書くけど、よくあるスタンダードな展開から外れる事で名作になるパターンって意外に多いので。


まあ、グダグダになっていくパターンがほとんどなんだけど。





映画はここから主人公レオの苦しみを描いていきます。

本人も観客もレミの自殺はレオのせいだと知っているんだけど、二人が喧嘩していた事を誰も知らないので、作中、彼は一切責められません。


むしろ、親友を亡くして、周りから労わられる状況。




レオはレミが自分を責めるような何かを遺しているんじゃないか、レミの母親は息子の死の理由を知っているんじゃないかと、気が気じゃありません。

探りを入れたりしますが、どうやらレミの母親は何も知らない様子。


ここ、はっきりとは描かず、レミの母親は本当は何か知っているんじゃないのか、レオを疑っているんじゃないのかと観客に思わせる、不安にさせる演出が絶妙です。



そして罪の意識に押し潰されそうなレオは、誰かに、いや、レミの母親に告白したいと思っています。

だが、言えない。

そう、つまりこの映画のテーマは「贖罪」。



いつ言うのか? それとも言わないのか?

この辺り、レオが行動に移すのかどうかが小さなサスペンスになっていて、観客を飽きさせない工夫になっています。




主人公の悲しみを描くだけだと、やっぱり地味で退屈になるところです。

レオは告白するのか?
また、告白を受けたらレミの母親はどうするのか?

このサスペンスがあるだけで作品の強度がグッと上がる。


繊細さを前面に出した、監督のセンスで撮った映画に見えるけど、その点、とてもテクニカル。



だからこそ、これほどの傑作になったのだと思う。



そして主人公の悲しみ、不安、恐怖、その心情の描き方が抜群です。

スポーツをして興奮していても、ゲームをして楽しんでいても、突然、悲しみと不安に襲われる。

普通に生活しているのに、おねしょをしてしまう。


ふとした瞬間に漏らす、「会いたい」という一言が胸を打つ。



そして映画はレオとレミの母親が対峙するラストに向かいます。

その内容は書きません。
未見の方は是非、見届けて欲しい。

本当に美しく、息を呑むラストです。




主演二人の演技にも拍手を送りたい。自然な涙が本当に美しかった。




以上です。だから私は感動しました。



誰もが友人を遠ざけた過去がある。
謝れずに、許せずに、後悔した過去がある。

そんな、遠くに遺してきた感情を嫌でも掘り起こされます。

自分を見つめ直す機会を与えてくれる、本当に素晴らしい映画でした。



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このシナリオがすごい!
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