「赤ひげ(1965)」感想。これぞ黒澤ヒューマニズムの集大成!

邦画

まさに巨匠の仕事だ。


ベタな内容なんだけど、これだけの強靭さで描かれるとやはり感動しますね。

演者の演技をしっかりと見せる長回しも効果的で、三時間、全くだれる事が無い。



ネタバレ度70%
未見の方はDVDか配信で!ネタバレ上等な方はお進みください。

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分析



赤ひげを演じる三船敏郎さんがヴェネツィア映画祭男優賞を受賞しているけど、映画の実際の主役は加山雄三さん演じる保本で、彼の成長物語です。



若大将シリーズで既に人気スターだったんだけど、黒澤映画の主役として見事な存在感。

前年の主演作「乱れる」(成瀬巳喜男監督)の演技は正直、棒読みな印象だったんだけど、そこはやはり黒澤監督、良い演技を引き出しています。





映画は序盤、保本(加山雄三)が赤ひげのいる小石川養生所にやってくるところから始まります。


そこで養生所の劣悪な環境、赤ひげの評判を紹介し、観客の興味を十分に引きつけてから赤ひげ登場と、キャラを立たせるオーソドックスなテクニック。


ここで満を持して登場する赤ひげの迫力は流石です。三船敏郎さん、完全に円熟の域。





養生所に勤める事になる保本は、その劣悪な環境に反発します。


展開として、彼がこの養生所で成長していく姿を見せていく映画だというのは明白なので、感動的にするため、ここではできる限り、赤ひげに、養生所に反発する姿を見せておくのが定石。


この点、丁寧に、しっかりと見せています。さすが巨匠、手慣れたものです。



保本が女性に対して恨みを抱いている様子も見せて、彼の過去に何があったのか、しっかりと謎を提示しているのも上手いです。


そんな反発している保本の元へ、男を惑わしては殺すという美しき狂女が現れる。


保本、あっさり誘惑される。


殺されそうになったところを、赤ひげに助けられます。



この狂女を演じるのは香川京子さん。

いつも貞淑な女性、妻を演じている印象が強かったので、その熱演に驚きました。

長回しでしっかりと見せる演出もあって、凄い緊張感、この映画の最初の見所になっています。




そしてまんまと美女に誘惑された保本は、気恥ずかしさから反発する気力が萎えている。

彼をフォローする赤ひげ、その様子は彼の不器用さが上手く表現されていて、とても温かみのあるキャラクターなのがわかります。





その後、保本は養生所で患者の臨終に立ち会い、その荘厳さに狼狽える。

更には手術に立ち会った場では、患者から目を逸らし、気を失う始末。

これで完全に保本の鼻はへし折られ、徐々に心を開いていくようになります。


この点、ただ医者として未熟というだけでなく、その前に狂女のエピソードを挟んでいるのが上手いですね、説得力が違ってくる。




ここから保本は養生所の患者たちと接し、その貧困ぶりや、過酷な人生を知っていく。


六助(藤原釜足)は激痛に堪え続け、呻き声一つ上げずに死んでいく。

その死に様は、今までの人生がそれ以上に辛かったのだろうと想像させます。



実際、明かされた過去は、妻が娘を連れて若い男と失踪、その妻は男を繋ぎとめるために自分の娘を差し出し、その娘は男との間に三人の子を作らされ、挙句、男を刺殺する悲劇。


男一人に家族みんなが不幸にされた事実が紹介される。


なるほど、なかなかにハードだ。




更には患者の佐八(山崎努)の臨終。

明かされる過去は、大地震で死亡したと思った妻と二年後に再会、その妻は他の男と一緒になり、赤ん坊を作っているという悲劇。

この妻、地震の折に自ら失踪したんだけど、その理由が、「幸せ過ぎて、怖くなった」というもの。


こんな理由に説得力を持たせている演出、演者の熱演が凄い。





この頃には保本はすっかり養生所に染まり、医師として働くようになっている。

その心境の変化を衣服の変化で見せているのも、シンプルで上手いです。



と同時に、赤ひげの魅力も見せています。

娼家で働く十二歳の女の子が無理矢理客を取らされそうになっているのを知り、連れ出す際、数人を相手に大立ち回り。

たった一人で全員を倒して怪我をさせ、挙句、自分で治療するという魅力あるシーンで赤ひげの、三船敏郎さんの魅力を引き立たせます。




そして保本に最初の受け持ちの患者として、この娼家の女の子、おとよの看病をさせます。

保本は心を閉ざしたおとよの看病をして、彼女の心を少しずつほぐしていく。


直後、病気に倒れた保本は、おとよに看病されます。


更に二人が全快した後、おとよは盗みを働く少年に優しく接し、彼を更生させます。



こうして人の優しさが伝染していく様子が丁寧に、感動的に描かれます。


この優しさの連鎖こそが、この映画の一番の魅力でしょう。



悪意や暴力の連鎖を描く映画は多いですが、優しさの連鎖を描く映画は実際、多くはありません。



それをこれだけの骨太さ、強靭さで見せる。


まさに黒澤ヒューマニズムの集大成だ。





ちなみに終盤、保本の父親役として登場するのが笠智衆さん。

ホッとしますね、ここでも父親役かと思いましたが、圧倒的な安心感。

ここだけ小津映画



以上です。だから私は感動しました。



香川京子さん、桑野みゆきさん、内藤洋子さんと、日本女性の美しさも強く感じられる映画でした。


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