「ファーゴ(1996)」感想。人間の愚かさを独特のユーモアで描く天才、コーエン兄弟の代表作!

ハ行
引用元 映画.COM

一時期、映画ファンに熱狂的に支持されたコーエン兄弟。

誘拐や殺人など、シリアスになればなるほど笑いの純度が上がっていくのはただただ唸る。



中でもこの「ファーゴ」は狂言誘拐を題材にして98分間、ずっと緊張感が続き、全てのカットがいちいち面白い。

脚本も出色の出来で、アカデミー最優秀脚本賞を受賞しています。



コーエン兄弟の特色と言えば個性的なキャラクターとブラックユーモアなんだけど、その面白さを説明するのは難しい。

ただセンスが抜群としか言いようがありません。


それでも大好きな作品なので、今回は思う事をつらつらと書いてみます。



ネタバレ度50%
未見の方はDVDか配信で! ネタバレ上等な方はお進みください。

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分析



いきなり「実話に基づく映画である」とテロップが出ますが、実際はフィクションです。

何故こんなテロップを入れたのかはよくわかりません。若干スベッてる気がしますが気にしない。




自動車ディーラーのジェリー(ウィリアム・H・メイシー)がチンピラに妻を誘拐させ、義父から身代金を奪う狂言誘拐を実行に移すところから物語は始まります。


チンピラを演じるのはスティーブ・ブシェミとピーター・ストーメア。


この名優三人が集う冒頭から画が強いです。

みんな個性的な顔立ちでいかにもコーエン兄弟の映画だなあといきなり感じさせてくれる。




そしてチンピラ二人がジェリーの妻を自宅からさらうんですが、この襲撃シーンがユーモラスで本当に独特です。

暴力による緊張の中、三人の動きが妙にコミカルなんですよね。

ピーター・ストーメアはジェリーの妻を捕まえた折に、噛まれて逃げられるんですが、その後、彼女を捕まえる事はそっちのけで、薬を探して回ります。

そして薬を探す事で隠れていたジェリーの妻と偶然出くわします。

カーテンにくるまれて視界を奪われた彼女は逃げ回るが、階段を落ちて勝手に気絶する。


クライム映画で誘拐シーンをこんなユーモラスに描く監督なんて他にいない。





そして妻のジーンがさらわれたと知り、計画したジェリーは悲しんでいる演技の練習を散々して、義父に状況説明の電話をします。

「お義父さん、大変なんです、ジーンが!」


最高です、コーエン兄弟。





そしてチンピラ二人はジェリーの妻を車に乗せて逃走するんですが、途中、警官に止められます。

何とかその場を取り繕うスティーブ・ブシェミ。

だが相棒のピーター・ストーメアは全く我慢できず警官を銃殺。

更に偶然居合わせて目撃したカップルも追いかけて躊躇無く殺すという良い感じのサイコパスぶりを発揮します。




そして映画は30分を過ぎ、やっと主人公の警察署長マージ(フランシス・マクドーマンド)が登場。

こんなに主人公が登場するまで時間を費やす映画も珍しい。

さすがコーエン兄弟、映画の定石は通用しません。




早朝、マージは寝ているところを電話で起こされて事件を知るんですが、直後、旦那と仲良く朝食を食べ、普通に家を出ます。しかし車は動かない。家に戻ってきて、夫に「バッテリー上がってるわ」と一言。


殺人事件が発生しているのに、このような日常を描くところが面白いです。

普通なら電話で起こされた次のシーンは事件現場に到着するシーンですよ。




最高です、コーエン兄弟。





そしてやっとマージが殺人現場に到着する。

そこで死体の検分、殺された警官の巡回記録から犯人像を割り出すんですが、彼女の聡明さをしっかり感じる。

ここで有能さをちゃんと見せている事に、コーエン兄弟の押さえるところは押さえるという脚本の上手さを感じますね。




そしてマージの捜査が描かれていくんですが、やはり描き方が少しずつずれてて面白いんですよ。

チンピラ二人の相手をした売春婦に聞き込みするんですが、一人がスティーブ・ブシェミの事を「とにかく変な顔だった」と言います。

それだけならまだいい。彼女は続けて、

「変な顔だったわ。あと、かつらはしてなかった」



何だよ、この証言。かつらって何だよ聞いてないよ。




何なんだよ、この台詞のセンス。




最高です、コーエン兄弟。







そして映画は女署長マージ、狂言誘拐を計画したジェリー、ジーンを誘拐したチンピラ二人を同時に描いていく展開になっていくんだけど、チンピラの一人、サイコパスのピーター・ストーメアの行動が予測不能でどんどん思わぬ方向に。


観客としては事件が解決するかどうかなんてもはや興味の外、このキャラたちの顛末を見届けたい思いになります。

それほどにキャラが立っている。





フランシス・マクドーマンド演じるマージは女性にして警察署長で身重。つわりに耐えながら自ら捜査、家では夫を支える優しい妻という、魅力的な女性を演じています。

この演技でアカデミー最優秀主演女優賞受賞。

小さな表情で見せる確かな意志、そしてユーモアはさすがコーエン兄弟のミューズです。




ジェリーを演じるウィリアム・H・メイシーがこれまた最高です。

何より印象的なギョロ目が良い。それだけで十分な個性を放っている。

アカデミー助演男優賞にノミネートされたんだけど、個人的には最優秀主演男優賞もの。

頑張り屋だけど無能、プライドの高さは人一倍、やることなす事空回りという難しい役を魅力たっぷりに演じてます。

誘拐を頼んだチンピラ二人には報酬として四万ドルを渡すと約束してるんだけど、義父には身代金として百万ドルを要求されたと言う強欲さが特に素敵。




チンピラの一人、スティーブ・ブシェミはもう言わずもがなでしょう。

この時期、ハリウッドで一番忙しかった役者さんです、印象的な変な顔が相変わらず素晴らしい。

相棒のサイコパスに振り回される様子は本当に同情します。




そしてこの映画のキーポイントとなるのはやはりサイコパス、ピーター・ストーメアですよ!

何をするかわからない暴力性、そして残虐性が見事です。


この映画のもっともインパクトのある、死体処理のシーンはトラウマ級。

未見の方は楽しみにしていただきたい。



悪役顔ですが、母国スウェーデンではシェイクスピア俳優の大御所だとか。

こういった確かな実力を持つ役者さんの魅力を存分に引き出すコーエン演出。



そしてこの映画に関しては、アメリカの片田舎、どこまでも白い雪原の美しい撮影も印象的です。


以上です。だから私は感動しました。



事件に一切関係無いのに、そこそこ尺を使って描かれるマイク・ヤナギダ。

おそらくは誰からも嫌われ、バカにされているのだろう。大好きです。





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