色々と凄い映画です。
ミステリーの女王、夏樹静子さん原作の「Wの悲劇」を劇中劇として使用し、全く違うオリジナル、女優を目指す女の子の青春映画にしてる事が何よりの驚き。
これ、夏樹静子さん、よく承知したよね、してないかもしれないけど。
(この点、ウィキペディアによると諸説あるようだ)
一応、本編とリンクする形にはしているけど、正直、このような使い方をするなら、夏樹静子さんの原作である必要性は薄い。
今なら訴訟問題になりそう。
そこは昭和の寛容さ、強引さを感じます。
そして主演の薬師丸ひろ子さん。
女優として大成していく女の子を演じているんだけど、それは同時に、本人がアイドルから女優へ脱皮していく過程を見てるような気にさせられる。
貴重な瞬間を見てるような。
役者が役を超えて、本人の内面、人生まで感じられる映画って、特別な熱量が発せられて、傑作になる確率が高い。
この作品もその一つです。
ネタバレ度60%
未見の方はDVDか配信で! ネタバレ上等な方はお進みください。
粗筋
三田静香(薬師丸ひろ子)は劇団の研究生。
大女優、羽鳥翔(三田佳子)のスキャンダルを利用し、大役を得て名を売っていく。
分析
脚本に関していうと、原作を劇中劇にするこの方法はやはり今だとなかなか考えられない。
不満はあったかもしれないけど、原作の夏樹静子さんの寛容さに痺れます。
まあ、原作の出版元が角川だし、色々あったんだろうと思いますが(苦笑)。
そして全くオリジナルの青春映画になっているわけだけど、そのオリジナル部分は名脚本家の荒井晴彦先生が担当。
「顔はぶたないで。私、女優なんだから」というセリフが流行語になるなど、名台詞のオンパレード。
当時、色んなシーンがパロディとして使用されました。
その脚本は当時大人気のアイドル女優だった薬師丸ひろ子さんに大きな試練を課している。
まずファーストシーン、ロストバージンした直後のベッドで、「女優として経験しておきたかった」と語る。
その帰り、野良猫に「私変わった?」と尋ね、がに股で歩く。
これはアイドル女優が演じる役じゃない。
脚本もそうだけど、監督二本目の澤井監督も本気だなといきなり感じた。
青春映画だけど、生ぬるいものは作らないという覚悟が見える。
そしてオーディションに落ち、女優を続けるか、辞めるかに思い悩む前半。
ここからどう展開するのか見ていたら、中盤で事件発生。
大女優、翔(三田佳子)の不倫相手が腹上死。
翔に頼まれて、身代わりとなる静香(薬師丸ひろ子)。
その見返りとして大役を得る。
このミッドポイントからの緊張感は白眉。
ここから薬師丸ひろ子さんの演技も熱が入ってきて、まだ拙い部分もあれど、女優として成長していく姿が役と重なって見えます。
そして静香はスターの階段を上っていくが、成功を掴んだ瞬間、暗転する。
ラスト。
静香が下した決断が尊い。
ここもまた、薬師丸ひろ子さん本人が夢見る女の子から大人の女へ成長した姿と重なります。
本人も当時は女優を続けるかどうか、思い悩んでいたらしく、役を超えたリアリティを感じる。
更にはこのラストシーン、「人生こそ舞台」とまで感じさせる脚本が素晴らしい。
儚さと気高さが感じられる薬師丸ひろ子さんの表情とポーズ、このラストカットは必見です。
こんな、青春映画にミステリーが絡む、珠玉の脚本。
その凄さはこの映画以降、テレビドラマで何度もリメイクされている事が証明しています。
若手女優とベテランが絶妙に絡む内容なので、企画として通しやすいんでしょう。
そして薬師丸ひろ子さんをがっぷり四つで受け止める三田佳子さんが何より素晴らしい。
不倫相手が腹上死、さらに若い女優を身代わりにさせるという業の深い役どころなんだけど、飄々と、貫禄十分に演じている。
改めて見て、「これは凄い」と感じました。
私が大好きな名女優の高峰秀子さんが「熱演とか言われると恥ずかしい。それは過剰な演技だったと言われているようなもの」みたいな発言を以前されていました。
その意味で言えば、この作品の三田さんは熱演しそうな役なのに、何処か余裕が感じられます。
つまりは名演なのでしょう。
澤井監督は二作目、荒井先生もまだ三十代、音楽は売り出し中の久石譲先生。
みなさんのこの作品に賭ける気迫が感じられます。
更に主題歌がいい。
作曲はユーミン、薬師丸ひろ子さんの伸びやかな歌声が沁みる名曲です。
以上です。だから私は感動しました。
あと、舞台演出家役で蜷川幸雄さんが出てます。
もちろん、台本投げます(笑)。
更には黒澤映画の名脇役、藤原釜足さんがちょっと出てます。
オールド映画ファンには嬉しいですね。
こうして見ると、見所だらけ!
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