実話ベースの未解決事件を題材にしたサスペンスです。
公開時、韓国映画がヒットを連発してましたが、この作品を見て「こりゃ敵わん」と感じたのを覚えています。
今見ても、ポン・ジュノ監督の演出力の高さに驚きます。
何と、この作品が長編二作目!
ソン・ガンホとのゴールデンコンビが生まれた作品としても記憶したい。
ネタバレ度80%
未見の方はDVDか配信で! ネタバレ上等な方はお進みください。
分析
公開時、かなりの話題作でしたが、未解決事件を題材にしているという事に興味を惹かれました。
解決しない事件でどうやってラストを締めくくっているのか、エンタメ作品としてカタルシスを得られるのか、と。
エンタメ作品じゃないなら投げっ放しでもいいんでしょうけど、韓国で大ヒットしていたので、どのように描いているのか、楽しみでした。
結論から言うと、実話の未解決事件ならではの不穏な感触を生み出す事に成功しており、そのラストは珠玉の出来です。
シナリオは硬派と言うか、実話ベースのため、凝ったプロット展開はありません。
若い女性を狙った連続強姦殺人事件の犯人を追っていくという流れ。
この作品が普通じゃないのは、警察の杜撰な捜査、そして暴力をがっつりと描いている事です。
殺害現場はまともな証拠保存がされず、容疑者と思ったら拷問しての自白強要は当たり前、証拠の捏造まで汚職の嵐です。
特に前半、独特のユーモアを交えて描いているのが上手い。
ソン・ガンホの憎めない存在感も手伝って、暴力描写はなかなかハードなんですが、目を背けたくなるような描かれ方をしていない。
これ、絶妙。
真正面から描いたら、嫌悪感を抱く観客も相当数いたと思う。
更に韓国の当時の軍事政権下の時代背景も織り込んでおり、リアリティを増す事に成功しています。
まあ、見ててあまりの無茶苦茶な捜査ぶりにちょっとやり過ぎじゃないかと感じたりもしたんですが、実際にこの事件についての記事を読むと、これでもまだ抑えているように感じました。
当時の韓国、かなりやばい。
この辺りの韓国現代史は他の映画でも時々描かれますね。
キャラ配置も上手いです。
昔ながらの暴力刑事、ソン・ガンホに対抗して、都会から赴任してきた刑事、キム・サンギョンを配置して、二人の対決を軸に捜査を描いていく事で、作品全体の緊張感を倍加させています。
映画は次々と容疑者が現れる中、どれも決定打にならない。
そんな警察の焦りを嘲笑うかのように、繰り返される犯行。
一瞬、犯人が映る犯行シーンの迫力、凄いです。
被害者の女性は下着で口や視界を塞がれ、悲惨な死体となって発見されます。
刑事たちの焦燥、怒りが増していき、理性ある捜査をしていたキム・サンギョンでさえ暴走、ソン・ガンホに宥められるように。
そしてクライマックス、キム・サンギョンが「こいつしかいない」と確信した容疑者が、DNA判定で無罪と知る。
DNA判定の結果、黒か白かで盛り上げる、その緊張感、その先の絶望のカタルシス、たまりません。
ちなみにこのラストの容疑者はパク・ヘイル。
意志の強さを感じさせる良い演技です。
最近では「別れる決心」での主演が印象的。
ここまでで十分に良作なのですが、続く素晴らしいラストシーンでこの作品は傑作になりました。
刑事を止めて転職したソン・ガンホのアップ、その表情。
未解決事件、まだこの社会に犯人がいるという現実が、深い余韻とやりきれなさを抱かせます。
未見の方は堪能してください。
以上です。だから私は感動しました。
さて、ここからは実際の事件について。
この事件は2019年、犯人が犯行を自供、証拠とDNAが一致して、決着しました。
犯人の名はイ・チュンジェ。
今や韓国のシリアルキラーとして有名です。
2019年当時、妻の妹を強姦殺人した罪で収監されていました。
十件以上の殺人と、三十件以上の強姦を自供しましたが、どれも時効で起訴されていません。
当時の警察の捜査は杜撰そのもので、自白の強要や拷問は当たり前だったようです。
多くの容疑者が生まれ、その中には拷問の後遺症で電車に飛び込んで自死した者や、脳死状態に陥った者、冤罪で20年以上服役した者も。
そして真犯人であるイ・チュンジェも当時、取り調べを受けています。
証拠不十分で逮捕にいたらなかったが、犯行現場から半径3キロ圏内に住んでいたという。
やり切れない。
彼は収監中にこの映画を見て、「何も感じなかった」と答えています。
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