アカデミー脚本賞にノミネートされた本作。
大人の男女のみっともない「未練」だけをひたすら描くというなかなか他に無い内容が光る。
セリーヌ・ソン監督は今作がデビュー作で、半自伝的な内容らしい。
おそらくは忘れられない人がいるんでしょう。
その監督の想いをびんびんに感じます。
まるで怨念のように。
彼女の「未練」が成仏された事を祈りたい。
ネタバレ度80%
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分析
初恋の相手と大人になってから再会するという展開。
しかしお互い、パートナーがおり、深入りはせず。
その中で溢れる想い、断ち切れない未練がひたすら描かれます。
つまり恋愛映画として見ると、今一つカタルシスには欠けます。
なのに深い共感を呼ぶ。
それは何故か? 誰もが「未練」を抱えて生きているからだ。
だが、「未練」を丁寧に描いただけではこれほど高い評価はされない。
この映画の凄味は違うところにある。
それは彼女の夫、アーサーの存在だ。
夫婦仲は良好で、出会った瞬間から意気投合し、すぐに結婚しました。
妻がグリーンカードを欲しかったのでね。
見ての通り、お似合いの素敵な夫婦です。
ところがある日、アーサーの妻、ノラは初恋の相手ヘソンと久しぶりに再会する事を嬉々として語ります。
アーサーは笑みを浮かべて、自分もその彼に会いたいと言います。
優しすぎるだろ。
心の狭い私ならテンション上がっている妻を見てイラっとするところです。
まあ、男に会って釘を刺したいと思ったのかもしらんが。
アーサー、何があろうと妻は離れていかないという不動の自信でもあるのか。
ところがそうじゃないらしい、僕は君の特別ではないと妻に言い出します。
たまたま君が寂しい時に隣にいた男だ、というような事を言うんですよ。
そして困った事に妻もはっきり否定しないんですよ!
私だったら、「否定しろよ!」と心の中で叫んでます。顔は笑って心で泣いてます。
そして三人で食事に行くんですよ。もうやめろ、アーサー! お前の心は鉄なのか!
三人で談笑し、和やかな雰囲気で進みます。
ところがですよ、
気付けば自分だけハブられて、二人で盛り上がるんですよこいつら!
しかもアーサーにはわからない韓国語で話し出す始末です。
見てください、アーサーの背中!
二人の視界に彼は入っていません、透明人間ですよ!ああ、私のトラウマが蘇る。
何て無神経な二人なんだ!
だが映画としては、恋愛の残酷な一面を見事に描いているとも言える。
そしてやっと、妻の初恋の男は韓国に戻る事に。
人の妻に会いにわざわざアメリカまで来るふてぶてしさが凄い(※主人公です)。
その別れの時、アーサーの妻は男を送っていきます。
消化できない、凄まじい未練を抱えながら、二人は別れます。
そして自宅に戻ってくる妻。
アーサーは自宅の前に座って待っています。
内心、気が気じゃないだろう。
そして妻と向かい合う。
すると妻は突如号泣しだして、アーサーの胸に顔を埋めます。
そんな妻を優しく抱きしめるアーサー。
神か仏か。
アーサー、私は君を抱きしめたい。
男女の「未練」を描きつつ、その煽りをくらうアーサーのようなキャラもしっかり描いているのがこの映画の凄味です。
はっきり言うと、アーサーがいなければ、ただの未練タラタラ男女のみっともない恋物語なんですよこれ。
ラストのアーサーが見せた優しさが、その懐の深さが、恋愛の複雑さ、残酷さを表現し、作品に圧倒的な奥行きを与えています。
その器の大きさ、宇宙レベル。
だが残念だ、全く憧れない。
以上です。だから私は感動しました。
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