見終わって余韻が抜けず、珍しくシナリオを購入しました。
これほど感銘を受けたのは何故だろうか?と。
演技、演出、脚本が見事なまでに化学反応を起こした傑作です。
日本映画にこのような作品が生まれた事が誇らしい。
ネタバレ度60%
未見の方は劇場へ! ネタバレ上等な方はお進みください。
分析
シナリオを読んでみて、やはりというか、映画中盤の伊東蒼さんの長台詞シーンが尊すぎる。
バイト仲間の萩原利久さんへ想いを語り続けるんですが、その長台詞の中で、今までの伏線の回収、そしてクライマックスに向けて新たに伏線を張るというテクニックが駆使されています。
台詞での表現なので、そこは非常に小説的なテクニックなんだけど、構図、照明を巧みに使った演出、そして伊東蒼さんの表現力で素晴らしいシーンに仕上がっている。
では、ここで伊東蒼さん演じるさっちゃんの長台詞、一気に書きます。伏線回収、前フリには下線を引いてみました。
さっちゃん「小西君もし失恋したら私が拾ったるわ!」
小西「変な冗談やめて。マジで」

「マジやで。私な、小西君のこと…アレやねん。アレ。恥ずかしくて言われへんわ。この感じ。まさにそれやん。ずっとそうやってん。小西君が私の気持ちを少しでも知ってたら他の人のこと好きにならんかったんかなって思ったらめっちゃ後悔。もう消えたいくらい後悔。耐えきれへんくなってどっか泳いで消えたろう思って浴槽ドボンしてみた、ドボンしてドロン。今こんなんいらんか! こういう時にな、ふざけてまうのもアカンのやろな。一週間前に言えばよかったわ。その人と仲良くなる前に。今更突然やめてーって思ってるやんな? ごめんな。小西君、隠しすぎも良くないで。私みたいになるで。あと、仲良くなりすぎも良くないかも。もし私たちの会話がもう少しぎこちなかったら違ったかも。もし、もし、ありえへんけど今急に、小西君が私と付き合うって言ってくれたとしても断る! だって私が一方的にアレなだけで、小西君は私のこと一ミリもアレじゃないもん。小西君のことなんでアレなんやろって思ったら、特に理由なんてないかも。あ、見た目は好みかも。今ごろ小西君のことをアレって言ってるこの時間なんやろ。あ、分かった、きっと参考にして欲しいねん。私の失恋を。失恋って言うたら重いか。私の事例を。事例ってなんやねん。好きな人と仲良くなりすぎてもアカンし、自分の気持ちを隠しすぎてもアカンってことをこの事例から学んで欲しい。突然、告白されたら、ビックリする気持ちが勝つねん。現に今、小西君ビックリしてるやろ? だから、私を教材にして、私を失敗例やと思って。こんなタイミングで告白したらダメ、こんなたくさんの言葉で告白したらダメ。もっと端的に! あの言葉だけを伝えたらいいねん。でもなー、助走無しではあの言葉は伝えられへんわ。だってめっちゃ重い言葉で、めっちゃ恥ずかしい言葉。読み方を変えて言うたろかな。小西君のことを、こ、の、き、ってこと。もう分かったやろ? ってか今の言い方気持ち悪かったな。ってか今まで私の気持ち、気付かへんかったん? なあ? 自分鈍感すぎるで。腹立つわー…ごめん。ごめんごめん! 今の忘れて。あ! なんやったら、その子に告白する時にこっそり覗き見してチェックしたろか、どうする? っていらんか! ほな、教材は帰ります! 今帰られたら、次会う時めっちゃ気まずいやんって思ってるやろ? 大丈夫、私めっちゃ普通にするから。ほんで、せめてなんか言わせてって思ってるやろ? でも何言うたらいいかわからんやろ? 心ここにあらずやろ? だってさっき街灯の蛾見とったやろ? 怒っとるわけちゃうよ! でも私、小西君が私に全く興味ないこと知ってるから! だって…小西君、私の名前知ってるん? なんでさっちゃんっていうか知ってんの? 私は小西君の名前知ってるよ。徹夜の徹でトオルやろ。『そういえばフルネームなんなん?』って前に聞いてん。そしたら『小西徹』って教えてくれてん。でも私の名前聞き返さへんかってん。あのとき小西君ほんまに私のこと興味ないねんなあって思ったの思い出した。ごめん。やっぱめっちゃ悲しいわ。『初恋クレイジー』もう聴かんくていいからね。なんか恥ずかしいわ聴かれるの。私の歌ちゃうけど。普通に考えたら、私がスマホで聴かせたらいいだけやのにね。ただ…私のおらへんところで、私のこと思い出して、聴いて欲しかっただけ! もう小西君のこと好きちやうから安心して! 好きになってごめんな。あっ、好きって言うてもうてるやん。もう既に何回か言うてもうてたかも。まあええわ。小西君のこと好きでいて楽しかったかも! 寝る前とかウキウキできたし。ご飯ご馳走してくれる約束、もういいからね。具体的な日にち言うてくれへんかったから実現しないってわかってたし。ご飯に二回も行ってくれるなんて適当な約束やめてや。あと、私たちバイトでしか会ったことないからご飯行くってなったら照れるかもな的なこと言ったやろ? あんな嬉しいこと言わんとって! あー、なんかこんな自分ほんま嫌やわ。ごめんな! 小西君、もう先帰ってええよ。今度会う時ほんま普通にするから安心して! 気まずさゼロ! 信じて! あ、でもちょっとだけ消えるかも! ちょうどサークル忙しいし。ちょうどって! ほな、私から先に帰るわ! バイバイ!」

切ないわ、さっちゃん!
俺が、
俺が拾ったるわ!(←ええて!)
とまあ、おっさんの叫びはいいとして、このシーンの伊東蒼さん、邦画界に新たな怪物が誕生したと確信しました。
クライマックスでは河合優実さん、萩原利久さんの見せ場となる長台詞もあります。
もちろん二人とも、素晴らしい芝居をしていますが、今回ばかりは伊東蒼さんの圧勝と言わざるを得ない。
弱冠19歳、末恐ろしいわ。
そしてこの伊東蒼さんの長台詞シーンがラストでまた出てきます。
その時、違う構図、照明で新たな感動を湧き出させる演出が本当に素晴らしい。
結局のところ、恋愛映画って、「好き」という言葉をどう形を変えて表現するかなんですよ。
この映画は正面からそこに挑戦している、そこが原作においても素晴らしい。
原作者の福留さんが本職の小説家じゃないからこそ、ここまで愚鈍に挑戦できたんじゃないかとも思う。
この、誰がも共感する伊東蒼さんの告白シーン、必見です。そして自分の失恋を思い出して身悶えるがいい。私は悶えた。
さっちゃんは原作よりも出演シーンを増やしているらしいです。大九監督の思い入れらしい。ナイス!

主演の萩原利久さん、河合優実さんのキャラ造形もコント師の福留さんらしく、ディテールが非常に細かい。
あざとさも感じられるけど、主演の二人がとても自然体で演じられててリアリティを与えています。
更には助演の黒崎煌代さん、とても個性的なキャラなんですが、絶妙です。

やはり恋愛映画は役者の魅力が大事。その点ではこの映画、奇跡に思える。
映画前半、萩原利久さんと河合優実さんが出会い、距離を縮めていく過程も台詞のリズムが上手く、良い雰囲気が出ています。

しかし中盤、待ち合わせ場所に河合優実さんが現れず、萩原利久さんがフラれたかのようなシーンがあるんですが。
そして河合優実さんがバイト先の店主と会話するシーンが挿入されるんですが、
「私、コンプレックスなんですよね、これ。笑い皴。あの人、やたらとここ見てくるんですよ。気持ち悪い。なんなんやろあれ。ずっと前から見られてたのかも。日傘の隙間から…日傘って」
あんないい感じだったのに、「気持ち悪い」と言われてます。

こんな笑顔を向けられてたのに。
私なら絶対イケると思ってる。
キツイて。
そう、ただの綺麗なヒロインとして描かれていないのがいい。
そして萩原利久さんも色々とイタイ。
この後、色々と妄想を膨らませて墜ちていくんですが、どんどん悪い方に考えが及ぶのは誰でもある、共感性の高い面白いシーンです。
素敵な美男美女の恋愛劇じゃないのがリアル。
だから受け付けない人も多いと思う。だが刺さる人には深く刺さる。
そしてスピッツ。「初恋クレイジー」。あれは反則。やばいです。
以上です。だから私は感動しました。

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