旬の若手女優三人が主演、更に坂元裕二脚本となれば期待値が上がる。
賛否あるようですが、私はとても感動しました。坂元ファンですから。
ネタバレ度90%
未見の方は劇場へ! ネタバレ上等な方はお進みください。
分析
坂元脚本の特色として、坂元節ともいえる台詞の魅力が一番に語られます。
しかし今回の作品では、いつもの坂元節は抑えられているように感じました。
その理由として、作品の設定がかなりベタというか、非現実的なのが要因に見える。
以下、いきなり重要なネタバレ。ご注意を。
三人は十二年前に少年Aに通り魔的に殺されて、以後ずっと、幽霊なんですよ。
そのため、自分たちの存在は他者には認識されない。声も届かない。
だから「片思い世界」なんです。うん、タイトル、これ以上は無い。
これほどドラマ性の強い設定のため、できるだけ素直な、ストレートな台詞を意識したんじゃないかなと感じます。
そしてそれは成功してます。
三人でいる楽しさ、優しさと同時に、怒り、悲しみ、妬み、色々な負の感情も描き、清濁併せ吞むエピソードの連続の中、見終わった後、私の心に強く残ったもの、それは小さな温もりでした。
この事実、脚本の勝利だと思います。
脚本としては、まず三人が幽霊と明らかになる流れが非常に映像的で、秀逸です。
凡庸な作品だと冒頭に殺人事件、そして幽霊になるのをストレートに見せるでしょう。じわじわと見せて、明らかになった時の新鮮な驚き、引き込み力が凄いです。
この構成、まさに匠の技。

ちなみに坂元先生脚本の連続ドラマ「大豆田とわこ」でオダギリジョーさんが「死んだ人は別の次元で生きている」という台詞があったそうな(※映画好きの友人談)。
その意味では坂元先生の中でずっとやりたかった題材だったのでしょう。
三人が幽霊だと明らかになり、そして現世に戻る方法を見つけて動き出す後半からドラマは一気に動き出します。
その中で、「あー、坂元脚本だなあ」と思ったのは、加害者の少年(今は刑期を終えて青年)と被害者遺族の西田尚美さんとの対面だ。
最近は大人のラブコメが多い印象ですが、一時期は心抉る社会派ドラマを連発していた坂元先生。
主演三人が現在の殺人犯を見に行く展開で、偶然、この緊迫のシーンに出くわすんですが、一気に緊張感が上がります。さすが、斜め上を行く上手いプロット。
そしてこの殺人犯と西田尚美さんのやり取りがもう凄まじいです。
殺人犯を演じる伊島空さん、更生したと思わせながらも、共感性の無さが滲み出ており、追い込まれて豹変するまでが絶妙。
そして追いかけ回されて、「逃げて!」と叫ぶ西田尚美さん。
この「逃げて!」に今回、一番感銘を受けました。
シンプルにして、亡き娘への変わらぬ愛、執着が感じられます。ここでこんな台詞、なかなか書けませんよ。
洒落た台詞じゃなく、このようなシンプルな台詞回しもやはり上手い。
あと、「脚本は小道具」とよく言われます。
小道具を効果的に使う事が脚本の質、テンポを上げるんですが、この映画でもその使い方はさすが。
肉まん、クッキー、ノートなど、そこかしこに効果的に配置されています。
中でもクッキーにまつわるエピソード、杉咲花さんの演技も相まって、こちらはもう感涙ですよ。
台詞の坂元節が弱くても、このように構成や小道具の使い方で圧倒的なテクニックを見せてくる。
題材の扱いを見てもこの映画、坂元先生の集大成の趣きがありますね。
そして映画は殺人事件の現場にもなった合唱コンクールをラストに持ってくるんですが、これはもはやずるいです。反則です。
劇場はすすり泣きがあちこちから聞こえてきました。泣くわこんなん。
儚さしかない。
広瀬すずさん、美人女優である他の二人と並んでも、その美しさはちょっと抜けている。
溜め息しか出ません。

そして私の推しの杉咲花さん、いつもその高い演技力に圧倒されるんですが、今作でも素晴らしい。

そして清原果耶さん、いつもと少し違う、勝気な三女を魅力的に演じてます。
その行動力でストーリーを前に進める重要な役どころ。良かったです。

この演技派の三人を見事にかみ合わせた土井監督の演出も見事です。
過剰な演技にならないよう、絶妙なバランスでした。
更には撮影の美しさも見逃せない。ファーストシーンからその美しさに襟を正します。
最後に、音楽は言わずもがな。
オリジナルの劇中歌「声は風」の清廉さ、美しさが観客にとどめを刺します。
見終えて今、サブスクで繰り返し聴いています。歌詞が沁みる沁みる。
以上です。だから私は感動しました。
見終えて今も、その後の三人に思いを馳せています。
この片思い、どうすればいいですか。
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