「グリーンブック(2018)」感想。人種差別をテーマにしつつ、二人の友情を軸に描くロードムービーのお手本映画!

カ行
引用元 映画.com

アカデミー作品賞受賞作品だけあって、上質な人間ドラマです。

演出、演技、脚本と主要部門に弱点が無い。
非常にアカデミー賞らしい作品で、確実に観客の期待に応えてくれます。



ちなみに、その点で今年度の作品賞を受賞した「エブエブ」はらしくない。
あれは弱点だらけの、尖ったタイプの作品。
しかし、その意味では守りに偏ってない選考でとても良かったと思います。




この「グリーンブック」、異なる価値観を持った二人が次第に打ち解けていくという、ロードムービーとして定番と言うか、非常にわかりやすい内容。

更に一つ一つの描写、キャラの変化が非常に丁寧に描かれている。

その隙の無さについて、つらつらと書いてみたい。



ネタバレ度80%。
未見の方はDVDか配信で! ネタバレ上等な方はお進みください。


この記事を書いている2023年12月現在、U-NEXTでは見放題配信されています。



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分析



まず、黒人ピアニストが白人を運転手として雇い、人種差別の残るアメリカ南部を回るというログラインが圧倒的な魅力を放つ。



しかも実話。




実話を謡っている以上、フィクション的な派手さはストーリーに必要無い。



あとはこの魅力あるログラインをどれだけ丁寧にやれるかの勝負になる。



そしてこの映画は非常に手堅く、丁寧にシーンを紡ぎ、一分の隙も無い映画になった。

スタッフが自分のやるべき仕事をしっかりとやった、その職人的技術が本当に素晴らしい。





まず第一に、白人の運転手、ヴィゴ・モーテンセンのキャラ造形が何より魅力的だ。


「ロード・オブ・ザ・リング」のアラゴルン役で有名だけど、その精悍さは何処へやら、増量し、粗暴で厚かましい差別主義者を見事に演じている。



全く共感できないキャラクターかと思いきや、序盤に家族思いの愛妻家ぶりをしっかりと見せて、観客の反感を逸らす事に成功。




しかもリンダ・カーデリーニ演じる妻が美人な上、夫と違って全く差別意識が無い。


この妻に愛されているならヴィゴ・モーテンセンのキャラにも良いところがあるのだろうと思わせてくれる。




何より魅力的なのは、ヴィゴ・モーテンセンが旅の途中に、頻繁に妻に向けて拙いながらも愛のある手紙を書いて送る事。


その姿はとても愛らしく、こうなると彼を嫌いになる観客はいない。




作品の前半はこの粗暴なヴィゴ・モーテンセンとやたら品格を大事にする黒人ピアニスト、マハーシャラ・アリの価値観の相違を見せていく。



この前半までで十分に面白いのだが、後半は更に、二人のドラマに加えて人種差別問題を絡ませてドラマに厚みを加えていく。

言わずもがな、ここからがアカデミー賞を取るほどまで評価された部分だ。




南部の田園を回っている道中、車が故障して止まる。

ヴィゴ・モーテンセンが車を修理している間、優雅に待っているのは黒人のマハーシャラ・アリ。


その光景を離れて眺めるのは、田園で額に汗して働く黒人たち。彼らの厳しい視線。


ここで挿入されたこの1カットが、作品をぐっと引き締め、観客を深いドラマに引き込んでいく。






ここからは主役二人の友情以上に、アメリカ南部に残る黒人差別を中心に描いていく。



マハーシャラ・アリの演奏仲間(白人)がヴィゴ・モーテンセンに告げる。

「北部にいれば三倍は稼げる。彼(マハーシャラ・アリ)は自ら進んで南部に来たんだ」

ヴィゴはただ、「何で?」と尋ねるだけ。

マハーシャラ・アリが信念を持って、南部に来た事が後に語られる。




そして、そんなシリアスなテーマを描きつつも、同時にユーモアを忘れないのがこの作品の魅力だ。

ヴィゴ・モーテンセンが妻への手紙を書いているのを見て、マハーシャラ・アリは尋ねる。


「何を書いているのかな?」
「手紙だよ」
「脅迫状かと思った」


上手い。


そしてヴィゴ・モーテンセンの拙い手紙を読み、マハーシャラ・アリがロマンチックな文面を考えてやる。
少しずつ二人が打ち解けていっているのがわかる、丁寧な流れ。


愛する夫からロマンティックな手紙を貰って、ヴィゴ・モーテンセンの妻は大喜びです。





そして終盤、ヴィゴ・モーテンセンが自分たちを侮辱した警官に暴行し、二人は逮捕されて留置所へ。

これはクライマックスに向けて、作品にフックを与えるエピソードだ。



南部の警官たちは横暴な差別主義者で、二人は一向に釈放されない。


そこでマハーシャラ・アリはロバート・ケネディに電話し、彼の助けを借りて釈放される。



ケネディと繋がっている事に驚き、大喜びのヴィゴ・モーテンセン。
ヴィゴとは逆に、助けを借りた事を「恥」と感じるマハーシャラ・アリ。

ここは二人の性格、価値観の違いを決定的に見せる上手いエピソードです。





ここでの言い争いから、マハーシャラ・アリは秘めた思いを吐露します。



「黒人でもない、白人でもない、まともな男でもない(実はゲイ)、私は一体、何なんだ!」


自分のコンプレックス、弱さを吐き出し、この独白を経て、彼は変わっていきます。


ここ、マハーシャラ・アリの抑えた慟哭は彼の品格を、更には映画の品格をも感じます。



その後、マハーシャラ・アリは訪れた会場で差別を受けると、演奏を断り、場末のバーに入って思いのままに演奏します。

酔客の熱狂を受けて、「ギャラはいらないからまた演奏したい」とご機嫌なアリ。



これは品格を重んじる、作品の冒頭の彼からは考えられない姿です。



この作品、ヴィゴ・モーテンセンのパンチの効いたキャラで冒頭から引っ張りますが、本当に描きたいのはこのマハーシャラ・アリの変化だ。



いつの間にか、この旅を通して人間味の薄いキャラクターから、非常に親しみを感じられるキャラクターに変わっている。


ドラマとは変化です、これはまさにお手本。



マハーシャラ・アリはこの演技でアカデミー助演男優賞をとりましたが、助演じゃない、彼こそが主演だ。





そしてアメリカ南部を回るツアーを追えて、あとはクリスマスイブにニューヨークに戻るだけなんですが、ここでちょっとしたエピソードが挿入されます。



また走行中、警官に止められるんです。

「またか」と呆れるヴィゴ・モーテンセン。
再び因縁をつけられて騒ぎになる予感がします。

しかし近づいてきた警官は、タイヤがパンクしているのでは?と忠告しに来ただけ。

更にはタイヤの交換を手伝ってくれて、別れ際には二人に向けて「メリークリスマス」とまで言っていきます。


ここで観客は、二人と共に北部に戻ってきた事を感じ、ホッとします。


この南部の警官との対比。
このエピソード、無くてもストーリーは問題無く進行しますが、これがあると無いとでは鑑賞後の後味が大きく違ってくる。


上手いです。





そしてラストに向けて。

眠くてもう運転できないと言うヴィゴ・モーテンセンの代わりに、マハーシャラ・アリが運転して、ニューヨークに戻ってきます。


ヴィゴの自宅前で別れる二人。
「俺の家族に会っていけよ」と言うヴィゴの誘いを断り、アリは待つ者のいない自宅へ帰っていきます。


そしてヴィゴは家族と友人とクリスマスパーティー。
しかしアリが気になり、何処か上の空。


そこへ、アリがパーティーに参加すべく、戻ってきます。
ヴィゴは喜び、愛する妻にアリを紹介します。



妻はアリとハグをした折、彼の耳元に囁きます。



「素敵な手紙をありがとう」








どうよ?





なんて粋なラストカットだ。





シーンを丁寧に紡ぎ、キャラクターの小さな変化を積み重ねたこの脚本にただただ唸る。

当然のように、アカデミー脚本賞も受賞してます。



以上です。だから私は感動しました。




こんな上品な映画を撮ったのは誰だとクレジットを見ると、監督はピーター・ファレリー。

あの下品の極致、「メリーに首ったけ」などを撮ったコメディの名手です。





人は変われるんだと、作品以上に監督が語っています。






ただ、この映画、人種差別の表現や歴史的事実の描き方に批判する意見も多いそうな。
絶賛ばかりではないという事は知っておく必要があるかと。

このような映画は色んな意見が出てこそ、健全だ。

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