「あんのこと(2024)」感想。新聞の小さな記事から着想を得た、社会派ドラマの傑作!

邦画
引用元 映画.COM

辛い映画です。

実話ベースなんだけど、そこからの肉付けも含めて、非常に良い脚本だと思いました。

その点、唸った部分をつらつらと書いてみたい。



ネタバレ度80%
未見の方はDVDか配信で! ネタバレ上等な方はお進みください。


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分析



12歳で母親から売春を強要され、16歳で覚醒剤を知った少女、あんの更生する姿を描く。


親身になってくれる一人の刑事との出会いが更生の一歩なんだけど、この刑事役の佐藤二朗さんが作品のキーポイントです。





クスリで苦しんでいる者を救いたいという正義感、深い情愛を感じさせるこの刑事。

あんにまともな生活を与えるため、いつも付き添い、ままならない行政とも本気で争ってくれる。

そして見事に母親から引き離し、仕事を持たせ、一人暮らしをさせるまでに。



佐藤二朗さんは人の良さが滲み出ている役者さんですからね、こうゆう役はぴったりです。





素晴らしい人格者です。これぞ刑事の鑑だ。




でもね、





いきなり書きますが、






この刑事、実は正義の仮面を被ったクソ野郎なんです。




シャブ漬けの女性を更生させて自分に依存させた後、性的暴行を加える鬼畜なんですよ。




その正体を見破るのは週刊誌の記者、稲垣吾郎さん。

汚職刑事の記事を発表し、佐藤二朗さんは逮捕されます。




ここが作品のミッドポイントで、あんは大きなショックを受けて、今いる土台が揺らぎます。


あん同様、私もショックでしたよ。


それほどにここに至るまでの佐藤二朗さんの刑事は好感度抜群で、その熱演がはまっていました。


脚本を書いた入江監督も、この事実を最初に知った時は大きなショックだったようです。



しかしそこはやはり映画監督、この瞬間に、傑作の手応えを得たのは間違いありません。




それほどにこの刑事の二面性は、人間の持つ矛盾を的確に観客に掲示してくれます。


そして同時に、脚本のミッドポイントとして、ストーリーを大きく転換させる見事なフックになっている。


ただの不良少女の更生ものじゃない、人間ドラマとしての奥行きを獲得する事に成功している。





そして生活に希望を抱いていたあんの生活も徐々に変わっていきます。


信頼する者を失い、更にはコロナがはびこり、職も失い、孤独になっていく。



ところがここで見知らぬ隣人から赤ん坊を押し付けられ、その世話をする事になります。




これは実話ではなく、創作されたエピソードのようなんですが、あんと赤ん坊との交流が作品のテーマを更に印象付ける事に成功しています。


孤独に陥ったあんですが、寂しいとか言ってる暇は無いほど、慣れない赤ん坊の世話は大変。


その悪戦苦闘ぶりを見ていると、「人は人と接する事で生かされている」という事を感じざるを得ない。

救われたのは赤ん坊じゃなく、あんなんじゃないかとさえ思う。



実話ベースにして、見事なフィクションと言わざるを得ない。







そんな感慨に浸っているところに、現れるのはあの最低最悪のあんの母親ですよ。



泣き落としであんを実家に呼び出し、赤ん坊を人質にとるや、再び売春を強要するという予想を裏切らない鬼畜ぶり。




ああ、本当にお前が憎い。




あんの幸せは音を立てて崩れていき、そして最悪の結末を迎えます。






たにもと(←私ね)、辛いです。



あんを演じた河合優実さん、見事です。




映画ファンなら既にお馴染みの若手女優ですが、作品毎に違う印象を与えてくれます。

演技力ならもっと上手い人もいるでしょう、しかし彼女の場合、「役を生きている」感が凄い。生まれながらの女優といっていい。


かさかさの荒れた唇が、細かい役作りを感じました。

儚げで繊細、純粋で前向きな少女あんを文字通り、等身大で演じています。

ただの可哀想な少女では終わらせないという、誠実さと覚悟を感じましたあなたが好きです。







更には毒親の河井青葉さん、素晴らしいですね。本気で殺意を抱きました。






佐藤二郎さんも自分の高い好感度を逆手にとった見事な演技でした。




こんな男でもあんには必要だったのかもしれない、あの結末は防げたのかもしれないと思うと、遣る瀬無さが倍増です。



入江監督、「さいたまのラッパー」で世に出たけど、意外とエンタメ作品とかも多く撮っているんですよね。
良くも悪くも器用です。今回の路線で良いと思うんだけど。



以上です。だから私は感動しました。



今も何処かにあんはいるんだろう。手を差し出せる人間でありたい。あんな刑事じゃなくて。



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