「裏窓(1954)」感想。脚本が冴えわたるワンシチュエーションスリラーの名作!

ア行
映画.com

骨折して動けない報道カメラマンの部屋と窓からの眺望だけで展開するワンシチュエーションスリラー。

そのジャンルで抜群の評価を誇る作品であり、実験性とエンタメを両立させるヒッチコックらしい代表作の一つ。

今見ると全体的に地味な印象は拭えないが、クライマックスの盛り上がり、その緊張感は流石としか言いようがない。

見終わって清々しいまでの満足感が得られます。やはり名作でした。


ネタバレ度60%
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分析

ジェームズ・スチュアート演じる貧乏カメラマンの主人公は足を骨折して部屋から動けない。

暇つぶしに窓から見えるアパートの住人たちの生活ぶりを眺めて毎日を過ごしている。

恋人は金持ち美女のグレース・ケリーで、その生活感の違いから彼女との結婚に躊躇している。


序盤三十分はこの説明にあてられており、お世辞にも面白いとは言えない。


久しぶりに見たら「あれ? この程度の映画だったっけ?」と不安に駆られました。




そして映画が開始して三十分、雨の夜、ジェームズ・スチュアートはアタッシュケースを持って何度も部屋と外を行き来するアパートの住人ソーワルドを見て、怪しむ。

しかもソーワルドの妻がその夜以来、いなくなっている。

もしや妻は殺されたのではないか?



ここ、今ならいきなり殺人現場を目撃するシーンを持ってくるでしょう。

そこで作品の緊張感を一気に高めるのが定石。


でもこの作品の場合、殺人なのか? 主人公のただの思い過ごしなのか?という展開で見せていく。


そこが刺激に欠ける部分でもあり、と同時に面白さでもある。


この中盤、脚本の上手さを感じる部分もありますが、やはり今の映画ファンが見ると少し退屈かなあ。


「あれ? この程度の映画だったっけ?」と更に不安が募る。






しかしだ、クライマックスは素晴らしいよ。


今まで眺めているだけだった主人公が、ソーワルドにカマをかけて挑発してから一気に緊張感が高まり、目が釘付け。


ヒッチコックはやはり流石だと痛感した。





この映画、全体を通して細かな脚本の上手さが光る。


まずキャラの配置が絶妙だ。

車椅子で部屋から出られない貧乏カメラマン。望遠レンズで向かいのアパートを覗くのもその職業柄、小道具も揃っていて説得力がある。

まあ、現代の目で見ると、完全に覗きすぎでアウトですけど。


話は逸れますが、この主人公が報道カメラマンで最近どのような事故に遭い、骨折までしたのか、カメラワークだけで説明するファーストシーンが白眉です。

こういった演出は本当に大きな影響を後の作家に与えていますね。



この主人公の対比として、殺人事件なんてあり得ない、それは思い過ごしだと主人公を一笑する友人の刑事。

そしてヒロインは金持ち美女のグレース・ケリー。

このヒロイン、女性が一人旅をするならお気に入りのバッグや宝石は持っていく、ソーワルドの妻は旅になど出ていないと推理したり、なかなか頭も切れるのが良い。

ただのお人形じゃなく、しっかりとストーリーに組み込まれている。


まあ、グレース・ケリーを金持ち設定にしたのはヒッチコックの単なる趣味だと思うが。

無駄にゴージャス。だがそれがいい。




映画中盤は殺人だと主張する主人公に対して、反論する友人刑事、ほぼそれだけで見せていく。


そして映画はクライマックス直前、刑事の反論に負けて、主人公はやはり自分の思い過ごしなのかと思い始める。

だがその夜、近所で悲鳴が響く。

アパートの住人の犬が殺されており、誰もが窓から顔を出して騒動となる中、ソーワルドだけ、顔を出さない。



ヒッチコックの偉大さはここだ。


ここぞというところ、重要なシーンがとても映像的、映画的なんですよ。


「あー、ヒッチだなあ」とうっとりします。




そしてこの作品、観客に飽きさせないよう、キャラたちのユーモアあるやり取りが魅力です。

ヒッチ作品史上、一番笑えるんじゃないかな。


「気分はどうだ?」
「良かったよ、君が来るまでは」

というような皮肉を効かせたやり取り、ニヤリとします。

ラストカットまでユーモアたっぷり、本当に飽きさせない。



あと何より強調したいのはヒロイン、グレース・ケリーの圧倒的な美。

車椅子のおっさんだけの地味な画が、彼女が現れると一瞬で華やぐ。

無駄に豪華な衣装、場に全く合っていないがそんな事はどうでもいい、その美しさに釘付けになる。




そしてこの映画が名作とされるのは、アパートの住人たち、彼らの愛を描く細かな描写、その人間賛歌にある。

孤独に悩むミス・ロンリーハーツが隣人のピアノ演奏を聴いて救われるシーンなんか、その象徴でしょう。

他にも色んな人間模様が描かれますが、隣人たちが間接的に影響し、支え合っている様子を描いて、作品に奥行きを与えています。




更に言うと、グレース・ケリーが殺された妻の結婚指輪を探し当てるシーンがあるんですが、それは殺人の証明であると同時に、結婚を求めた彼女の勝利をも象徴しているとトリュフォーが指摘しています。

そう聞いたヒッチコックは「君の言う通りだ」と答えてる。


いわゆるダブルミーニング。まあ、こう言った深読みは私は好きではないんですが。

私はそんなのたまたまというか、こじつけだろう、と考えるタイプです。一応、物書きだった経験もあるので



そうした数々の描写の深みが単なるスリラーを超えて、ヒッチコックの最高傑作と言われる所以なのでしょう。




以上です。だから私は感動しました。



余談になりますが、この映画のラスト、原作小説では主人公は犯人に銃を向けられて撃たれるが、ベートーヴェンの像に弾が当たって助かるという流れらしいです。

それをヒッチコックはどのように映画的に改変したか。意識して見てみると面白いです。

本当に映画職人だと惚れ惚れしますね。

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