アルフレッド・ヒッチコックの名を聞く事も少なくなってきました。
オールドファンなら誰もが知るサスペンスの神様。
そのフィルモグラフィにおいて、サスペンスしか撮らなかったという一徹ぶり。
独特の映像、カメラワークも特色で、そのこだわりは変態レベル。いい意味で。
この「サイコ」は代表作の一つなんだけど、精神異常の連続殺人犯を描いている点で異色作でもあります。
いつもはストーリーテリングや設定が売りの作品が多いので。
久しぶりに見たら滅茶苦茶面白かった!
ネタバレ度60%
未見の方はDVDか配信で! ネタバレ上等な方はお進みください。
分析
会社のお金を横領して逃げるジャネット・リー。
まずは彼女の犯行、逃走を丁寧に描いていく序盤。
いささか地味な出だしなんだけど緊張感があり、飽きさせない。
心理サスペンスをしっかり押さえたヒッチコックの確かな演出が光ります。
そして逃走中、ジャネット・リーは辺鄙な街のモーテルに泊まるんだけど、シャワーを浴びてるところをいきなり襲われて惨殺されます。
このシャワーシーンの衝撃は当時だと相当でしょう。
ジャネットの絶叫ぶり、恐怖を煽る音響、刺激的なカット割りとサスペンス映画屈指の名シーンとされています。
少し話は逸れますが、ここでの1カットが面白いんですよ。
どうやって撮ったの?
惨殺シーンで挿入されるこの1カット。
調べたら、シャワーの中心を塞いで水が出ないようにして、更に望遠レンズで撮っているとの事。
このカット、別に無くてもいいんですよ。そんなカット一つにこれだけの拘り。
さすがヒッチコック。映像の変態です。間違いありません。
そして脚本的には、この主人公と思われたジャネット・リーが惨殺されるというショッキングな展開が凄いです。
ここ、映画開始47分なんですよ。
サスペンス映画って定石では序盤に殺人シーンを持ってきます。
そこからの捜査がメインストーリーになるんですけど、この映画では主人公と思われたキャラが中盤で殺されるという構成。
そのためにこの先の展開が読めず、ここからどうなるの?と一気に映画に惹き込まれます。
殺したのはモーテルの支配人、アンソニー・パーキンスの母親です。
この母親、映画では一切姿を見せないんですよ、わがままで気の強い性格だとわかる台詞だけが流れます。その演出が更に不穏さを煽ります。
そしてマザコンのアンソニー・パーキンスは母親の犯罪を隠蔽するため、ジャネット・リーの死体を処理します。
浴場の掃除、死体を車で運び、池に埋めるまで。
この描写を十分ほど使って丁寧に、執拗に描いているのがとても効果的です。
サスペンスの名作「太陽がいっぱい」でもアラン・ドロンがサインを真似る練習をひたすらするシーンが評価されていますが、こういった地味な描写は非常に大事。リアリティが違ってきます。
そしてこのアンソニー・パーキンスも客室への覗き穴を作っていたり、ジャネット・リーとの会話では急に不機嫌になったりと、危うさが絶妙です。はまり役。
そして映画はジャネット・リーの行方を追う探偵が現れ、早速、アンソニー・パーキンスに迫ります。
この展開の早さが良いですね。
アンソニー・パーキンスへの尋問では有能さを発揮して、どんどん追いつめる。
そのため、アンソニー・パーキンスの母親に狙われてあっという間に殺されます。
ここの探偵の追いつめ方、台詞のやり取り、上手いです。
そして探偵も消息不明となったため、ジャネット・リーの妹と恋人がタッグを組んで、調べ始めます。
そしてアンソニー・パーキンスが怪しいと睨むんですが、ここで街の保安官から衝撃の事実を聞きます。
アンソニー・パーキンスの母親は十年前に死んでいるという。
なら、アンソニー・パーキンスと同居している老婆は何者なのか?
そしていよいよアンソニー・パーキンスのモーテルに乗り込む妹と恋人。
ここで果敢に妹がアンソニー・パーキンスの自邸を調べ回るクライマックス、彼女に迫る殺人犯、素晴らしい緊張感ですよ。
ネタバレ厳禁のラストも非常にショッキング!
序盤に殺人、中盤に第二の殺人事件を起こすのがサスペンスの定石なんですが、そんなルールは無い!と言わんばかりの神様の自由な構成、作劇。
それでいて持続する緊張感。
圧巻の面白さ。まさに名作だ。
ちなみにこの映画、原作があるんですが、ヒッチコックは犯人のキャラクターや衝撃のラストとかじゃなく、女性がシャワー中にいきなり襲われるというシチュエーション、そこたった一つに興味を持ったとか。
さすがサスペンスの神様、普通とは着眼点、興味の持つところが違う。
断言します。変態だ。
以上です。だから私は感動しました。
バーナード・ハーマンの音楽も非常に良い。
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