傑作誕生です。
特にラストカットが本当に素晴らしい。
本日、発表になったアカデミー賞でも作品賞、監督賞、脚本賞、主演女優賞など、主要部門を独占しました。おめでとうございます。
主演男優賞も取れてたらアカデミー賞史上四作品目のビッグ・ファイブでした。惜しい!
ネタバレ度90%
未見の方は劇場へ! ネタバレ上等な方はお進みください。
分析
やはり何と言ってもショーン・ベイカーの脚本が秀逸。
目まぐるしく変わっていくプロット展開が鮮やかです。
全体をサラッと書きます。がっつりネタバレなのでご注意を。
ストリップダンサー、アノーラがロシアの道楽息子と享楽的な時間を過ごし、勢いで結婚。

その事実を知った息子の両親が激昂し、手先の者を使って二人に離婚を迫る。
愛を信じて抵抗するアノーラだが、夫は一目散に逃げ出す。
アノーラ、手先の者たちと一緒に夫を探し回る。←この展開がコメディとしてとても良い。
やっと夫を見つけ出し、ついでに息子の両親も現れて、離婚する。

と、普通ならここで夫をぶん殴るなりして、映画は終わる。コメディだし。
だがこの映画は違う。
アノーラは手先の者の一人、ユーリー・ボロソフに家まで送ってもらう。
少しずつ会話を交わし、お互いを理解していく二人。
家の前に着いた車中で、アノーラは没収されていた4カラットの結婚指輪をユーリー・ボロソフから貰う。彼が隠し持っていたのだ。
金に換えれば相当な額になるだろう。
傷ついてなお強く振舞うアノーラへのユーリーの謝意だ。
そこでアノーラはお礼か好意か、ユーリーのシートを倒し、そのまま彼に跨って繋がる。暫く腰を振った後、ユーリーを殴りだす。そして泣き出し、号泣する。
瞬間、ユーリーはアノーラを強く抱きしめる。繋がったままで(※未確認)。
アノーラのぐちゃぐちゃな感情が見事に表現されている。感動で言葉を失うレベルのラストカットだ。
正直ね、このラストまではコメディの良作というレベルなんですよ。
だがこのラストカットが映画のレベルを二つは上げている。
このためにこれまでの二時間弱があったのだとわかる。
これぞ映画だ。
映画としては放蕩息子と離婚して以降は、短いシークエンスで締めるのが定石。何故ならストーリーは終わったのだから。
だが、この映画ではそれ以降も、丁寧にアノーラを、アノーラに寄り添うユーリーを描く。
ここで感じられるのは監督・脚本のショーン・ベイカーがアノーラに向ける愛だ。
報われて欲しいという、ショーンの祈りにも見える。
どうしようもない人達を愛を持って描くショーンの真骨頂でしょう。

感動的な台詞のある映画はたくさんある。
しかし言葉で説明できない感情を、映画の中で表現できた時、それはもう一つ上の傑作となる。
私にとってはそれは、「ニュー・シネマ・パラダイス」と「いまを生きる」のラストシーンだ。
今後、この作品も入れて、たにもと三大ラストと呼ばせていただきます。
コメディとしては、アノーラが手下の者たちと敵対するシーン、一緒になって夫を探すシーンなどは非常に秀逸。
声を上げて笑った。映画館ではそんなの私一人だったけど。

アノーラのじゃじゃ馬ぶりを見事に演じたマイキー・マディソンはアカデミー主演女優賞受賞も納得です。
生きるエネルギーが凄まじく、見てるだけで元気になりますね。

そしてこの映画を傑作にした大きな要因、手下の男の一人を演じるユーリー・ボロソフが素晴らしい。
映画後半からは彼の片思いの映画にも見える。
それほどにアノーラを見つめる視線、振る舞いに意味を持たせていました。
朴訥な中、時折見せる笑顔、これは女性はたまらんでしょう。私と全然違う、禿げ方は似てるのに何故だ顔か。

アカデミー賞受賞と共に、私の今年暫定ベストです。ありがとうございます。
以上です。だから私は感動しました。
ちなみにこの映画、客層が老若男女、色々でした。
しかし何故か70、80歳ぐらいの男女で、一人で見に来てる人が多くいて違和感があった。
ディランを描いた「名もなき者」ならわかるのだが。そっちは全然いなかった。
R18の、それ目当てで来たのかもしれん。みなさん、元気です。

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